日本人初のベトナム公認会計士が語る「ベトナム進出成功の鍵」とは

I-GLOCAL 蕪木優典先生

グローバル化や少子高齢化の影響を受けて、海外進出を目指す日本企業が増えてきました。

そうした中で注目を浴びているのが、急成長を続けているベトナム市場です。

今回は、日本人初のベトナム公認会計士として、20年以上にわたり、日系企業のベトナム進出をサポートしてきた、株式会社 I-GLOCALの代表・蕪木先生にお話を伺いました。

ベトナム進出を成功させるポイントや注意点などを詳しくお話いただきましたので、ぜひ最後までご覧ください。

株式会社 I-GLOCAL 代表取締役 ベトナム公認会計士 蕪木 優典 先生

1972年東京都出身。慶應義塾大学経済学部卒業、1996年あずさ監査法人入所。1999年、アーサーアンダーセンベトナム(現KPMGベトナム)に出向し、日本人初のベトナム公認会計士資格取得。

2003年 ベトナムで独立起業。現在、ベトナムやカンボジア進出を目指す日系企業の支援を手がけている。

著書「これからのベトナムビジネス2020年」等。

ベトナム進出支援専門の会計事務所に聞く、ベトナム市場の魅力

I-GLOCAL 蕪木優典先生 2

インタビュアー:最初に御社の強みや得意領域を教えてください

蕪木先生:ベトナムで日系最古の最大規模の会計事務所として、会計税務やM&Aコンサル、会社設立等、幅広い分野で数多くの実績があります。

顧客も時価総額1兆円超の会社から中小零細企業まで、継続的顧問契約で約900社 One Timeも合わせると概ね1000社程度、グループで顧客数があります。

私自身は2000年に日本人で初めてベトナム公認会計士資格を取得して、かれこれ20年間、日系企業のベトナム進出をサポートしてきました。

現在、日本人でベトナム公認会計士の資格持っている人は10人くらいいると思いますが、当時はベトナム全土で私しかいなくて、前職のあずさ監査法人やBIG4と呼ばれる会計事務所からもベトナムの案件の多くを私に紹介してくれていたんです。

そのおかげで様々なベトナムビジネスに携わることが出来ました。当時は、銀行や会計業界でも「ベトナム会計士といえば、蕪木さん」というブランディングも出来ていたと思います。

「伸びる場所で、伸びる仕事をする」。これはキャリアを考える上でも非常に重要だと思いますが、私の場合は、ベトナムという伸びる市場でキャリアを積んでいたら、たまたま、専門性を持った領域が伸びる分野でうまくいったという感じですね。

インタビュアー:日本企業からみたベトナム市場の魅力を教えてください。

蕪木先生:ベトナムは年々人口も増えていますし、GDPの伸び率も高く、少子高齢化を迎えた日本とは比べて、非常に伸び代が大きい市場です。

私のお客様で、日本ではスーパカップ等で有名なエースコック株式会社さんがありますが、日本だとカップ麺市場は、ずいぶん前から成熟している一方で、ベトナムでは未だ成熟していないのです。

日本では浸透しきった成熟した分野の商品が、ベトナムではうまくいくというケースは多いと思います。

ただ、丸っきり過去の日本と同じかというとそうでもない部分もあります。

例えば、テクノロジー的な面ではベトナムも急成長をしているので、単に昔に日本で流行った技術的なものを輸入すればいいという発想だと難しい気がします。

また、日系企業は、技術力が強みだといって、余計なハイスペックな商品を高い値段で売ろうとしてしまって失敗しちゃう、というケースもありますね。

インタビュアー:東南アジアの中でもベトナムならではの特徴はありますか?

蕪木先生:ベトナムの場合、どちらかというと東アジア文化圏で、中国や韓国、台湾と宗教や文化が近いですね。

あの緯度にある国々と比較してもベトナムは優秀な人材が豊富に揃っています。数学ができる人も多く、ITのエンジニアも優秀です。

今ベトナムはオフショア開発先などとして、コストが安いのではないか?として検討されることもあるのですが、もはやコスト面ではなくて、普通にベトナムでやった方がいいんじゃないかって考えるようになっている気がしますね。

また、日本はベトナムと国境を接してないので、政治的な摩擦があまりないんです。

親日の人もいますけど、そもそも反日という存在が皆無ということはありがたいと思います。

まとめると、ベトナムは東アジア文化圏で優秀な人が多いし、日本人的に文化的に違和感を感じない、という点がポイントです。

ベトナム進出を成功させるためのコツとは?

インタビュアー:日本企業がベトナム進出を成功させるためのポイントを教えてください。

蕪木先生:1つは、ベトナムと相性が良い、情熱があるサラリーマン的な発想ではない人が駐在していることですね、

立ち上げ期には、サラリーマン的な感覚の人だと上手くいかない場合が多く、代表自らが現地企業を先導したり、現地で起業する方の成功確度が高いように思います。

例えば、元サイバーエージェントの方がベトナム・ホーチミンで立ち上げた「ピザフォーピース(Pizza 4P`s)という有名な会社があるんですが、ここは非常に成功している良い事例です。

また、大きな会社で既に歴史的に他の東南アジアの国で成功実績がある会社は、既にノウハウがあるので成功しやすいと思います。

もう1つは、現地の人が共感できるような事業であることです。

現地の人が見たこともない、使ったこともない、今後も使わないようなものを作らせる、そういう事業はうまくいきません。

ベトナムには存在しないモノやサービスをベトナムで作成する場合、そもそもベトナム人は、そのモノやサービスの社会的な価値が解らないから、それを伝えるための熱意とかが必要になると思います。

対策として、実際に製品や顧客の声等を現場に飾って、ベトナム人スタッフに説明することで成功している事例もありますが、基本的には、現地の人が親近感を感じる製品やサービスの方がうまくいくと思います。

インタビュアー:ベトナム進出でよくあるトラブル、注意すべきことはありますか?

蕪木先生:税務リスクが高いのはもちろんですが、最近では人事労務でのトラブルが増えていると思います。債権回収でのトラブルや各種不正が多いですね。

ベトナムの人は不正に対する意識が低いと言われることも多いんですが、被害の実態をみてみると、あまり報道されないだけで、現地に出向した日本人スタッフが不正をする割合もかなり多くあるように感じます。

親会社の管理が緩い場合、駐在する日本人が、現地スタッフとつるんで不正をするなんていうケースもあります。

そういった面からもベトナム進出を検討する際には、トップが自ら出向き、絶対成功させるという気概が大切かなと思います。

最初からグローバルで考えた方が伸び代がある

インタビュアー:印象に残っているお客様とのエピソードがあれば教えてください。

蕪木先生:沢山ありますが、難易度の高い会社設立が無事に終わったり、税務調査がスムーズにいったり、会社清算を3年くらいかかって、その仕事がおわったとき等に、お客さんから、感謝されるときは、この仕事をやっている意味や、我々の存在感を感じる時だと思います。

特に印象に残っているのは、3年かかったベトナム現地子会社の清算案件です。

お客様は、早く事業をクローズしてリスクを0にしたかったんですが、途中でちゃぶ台返しのような法令改正等が何度もあって、結果として事業撤退まで3年の月日がかかりました。

社長からすると、途中不安を感じる面も多くあったと思いますが、私が起業した当時からのお付き合い頂いた方で、ずっと私のことを信頼をしてくださってました。

そうした信頼関係がなかったら、お互いにどこかで喧嘩をしていただろうなと思います。

無事に終わった時は、思わず二人で握手しましたね。嬉しかったことの1つです。

インタビュアー:最後に、東南アジア進出を目指す経営者に一言お願いします

蕪木先生:日本だけで考えると伸びしろが少ないように感じますが、東南アジアを含めて考えると、まだ成長マーケットは沢山あると思います。

であれば、最初からグローバルな観点で考えた方が伸びしろがあるのではないでしょうか。

ベトナムに関していうと、ベトナムは、日本人には馴染みやすい国であり、国民性です。

ベトナムはこれからも伸びる市場だから、伸びる仕事を地道にスタートさせていけば、何年後かにうまく行った時の爆発力はすごいと思います。

現在はコロナ禍で業績が低迷している会社も多いと思いますが、景気が悪い時こそ、会社が大きく変換するチャンスと捉えて頂ければと思います。

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