日本の隣に位置し、文化的にも経済的にも日本と共通点の多い韓国。
ですが、日本で成功したビジネスモデルだからといって必ずしも韓国でも成功するわけではありません。
日本企業が韓国進出を果たし、成功するためのポイントは何なのでしょうか?
今回は、日本企業の韓国進出を支援している株式会社スターシアの黄先生にお話を伺ってみました。
株式会社スターシア 代表取締役 黄 泰成 先生
1995年、慶応義塾大学経済学部 卒業。同時に公認会計士二次試験合格。
1997年、朝日監査法人(現あずさ監査法人)入所。99年に公認会計士登録。
その後、アーサーアンダーセン、KPMGサムジョン会計法人(韓国)に勤務後、2007年に株式会社スターシアを創業。
韓国進出支援に特化!スターシアグループの特徴とは?
インタビュアー:まずは御所の強みや得意分野を教えてください。
黄先生:韓国にフォーカスして、専門的サービスを提供できる事務所という点です。
スターシアは、日本にも韓国にも拠点があります。日本から韓国に進出したいといった相談は、まず日本で受けます。日本で進出前・進出後の専門的な相談に乗ることの出来る事務所自体が極めて少ないため、その点がスターシアの強みになっています。また、実務自体はほぼ全てを韓国事務所で対応していますが、常に日本事務所と韓国事務所で情報を共有しつつ連携しています。
日本と韓国の会計士が両方所属し、一緒になってやっている事務所は、日本国内では実質、スターシアくらいかなと思います。
韓国語ができる日本の会計士はたまにいます。日本語が上手な韓国の会計士は沢山います。いるのですが、拠点がどちらか一方だけで最後まで面倒を見切れない、語学は上手だけど日本企業の商習慣が分からない、という事態になりがちな印象を受けています。
インタビュアー:お客様はどういった業種・規模感の会社が多いですか?
黄先生:業種に関しては千差万別です。
韓国企業に部品や製造設備等を納品している日本企業が、韓国企業に対応するためのサービス拠点というのが最も一般的な業態かとは思います。それ以外では、その時々によって流行りみたいのがあり、特定の業種の進出が一定期間続くという波が代わる代わるやってくる感じです。
お客様の規模感でいうと、一部上場の大企業を親会社にしている会社も多いですし、個人企業のような小さいところもあります。どのような規模感の会社をターゲットにしているかという観点では、あまりこだわりは持っていません。
それよりも、韓国でビジネスする時に、本業以外の変な理由でビジネスが頓挫する不幸を無くしたい、というのがスターシアを立ち上げた一番の目的であり、こだわりを持っているところです。
ちゃんとした専門家に相談することなく韓国でビジネスを始め、そのために変な事故にあってしまい、ビジネスが頓挫する事例を数多く見てきたました。そのような悲しい事態に陥らぬよう、大きな会社から小さな会社まで、規模に関わらずしっかりサポートしたいと思っています。
インタビュアー:小規模な会社ほど、ノウハウや知識も不足してそうですもんね。
黄先生:そうですね。大企業になると、法務部や経理部、財務部があるので、自分たちである程度、結論を準備してきているんです。で、その結論が本当に正しいかどうかをチェックするという専門家の使い方をするので、まさに石橋を叩いて渡る感じです。
一方で、中小企業の場合は、十分なリソースがないため、自社でリサーチしきれない。
リサーチしきれないため、専門家のサポートが必要かどうかも判断できない場合もあります。単純に、専門家報酬を支払うことがもったいないと考えるケースもあります。とはいえ、何千万円、何億円の投資をしようとしているときに、そんなにノーガードで攻めて大丈夫だろうか、と心配になるケースが多々あります。
これは、韓国に限らず、仕事仲間みんな言うことなんですが、リスクが発生する前に事前に相談してくれた方が結果的には専門家への報酬は格段に安上がりです。
例えば、韓国進出を検討したいので計画段階からアドバイスが欲しいという場合、月額顧問料10万円くらいで3ヶ月程度の時間もらえば、かなりリスクを減らした形での進出スキームを作り上げることができます。
税法・会計・内部統制はもちろん、人事労務関連、取引相手との関係を考慮に入れた商取引形態、資金決済と韓国外為法との関係など、検討事項は広範囲に渡ります。
一方で、事前検討が不十分なまま進出した結果、韓国外為法に違反してしまった、従業員が横領した、税務署から追徴課税を受けた、という問題が起こり、そこで初めて相談に来られる会社も数多くあります。
問題が起こった後の対処となると、上記の顧問報酬の10倍以上のコストが発生するということもザラに起こります。
場合によっては、弁護士費用もかかるケースもあります。韓国で問題が起こると、韓国法なので韓国の弁護士が必要になりますが、日本語のできる韓国弁護士の報酬は得てして高額です。
問題を解決するために1000万とか2000万円とかの報酬になる場合も珍しくはありません。
そういう可能性を限りなく減らすためにも、コストをかけてでも事前に検討することは、本当に大切なことだと思います。
韓国進出で失敗しないための2つの注意点
インタビュアー:日本企業が韓国進出した際、現地でよくあるトラブルや注意点って何かありますか?
黄先生:ビジネスそのもので失敗するのは仕方ないと思います。そうではなく、足元をすくわれて失敗してしまうケース。これには気をつけてもらいたいです。
まず、気をつけて欲しいことの一つ目は、むやみに人を信用しないこと。
韓国には日本語が上手な人がたくさんいます。外国人に日本語で話されるとそれだけで気を許してしまう日本人が多いように感じます。
さらに、プレゼンテーションが日本人に比べて非常に上手だという印象を受けます。魅力的な提案を受けて、成功した将来の絵を見せられて、Win-winで行きましょう!と乗せられて、勢いで投資してしまう例をいくつも見てきましたが、そこで踏みとどまって冷静になることです。
どんなに魅力的な提案であっても、きちんと専門的な見地からアドバイスしてくれる相談相手を見つけることが重要だと思います。
提案されたビジネス・スキームが実現可能なのかどうか、どのようなリスクがあるのか、相手の信用状態は大丈夫なのか、そういったことを行動を起こす前にきちんと把握しておくことは、やはり必要なんだと思います。
気をつけて欲しいことの二つ目は、正確な情報をちゃんと入手して、自分で考えること、です。
「韓国ではこういう決まりだから」「韓国ではこれが一般的です」と言われて、それを鵜呑みにしてしまって損するケースが多々あります。
人事労務関係を例にあげます。韓国拠点の従業員から、日本の常識では考えられないような手当を要求されるケースがあります。
例えば、「韓国では子供の教育費を会社が払うのが一般的です。」と言ってきます。確かに、財閥系企業の上級職だとそういう手当がないわけではありません。
したがって、嘘を言ってきているわけではないんですが、「一般的」というのは明らかに誇張です。
子供の教育費のように分かりやすい誇張もあれば、「従業員の食事代は会社が負担するのが一般的です」という微妙なものもあります。それぞれについて、どのように会社として対応するかは、やはり正確な情報を入手して、自分で判断するしかありません。
「韓国では一般的です。韓国の制度ではこうなっています。」という主張に対して、その真偽を確かめ、判断するためにも、韓国の制度・商習慣に精通している相談相手を確保しておくことが非常に重要だと考えます。
簡単に人を信用しないこと。韓国ではこうなっています、を鵜呑みにしないこと。この2つは特に注意して欲しいです。「当たり前のことだ」と感じるかもしれませんが、この二つが原因で苦しんでいる事例が非常に多いのが現実でもあります。
インタビュアー:黄先生が思う韓国市場の魅力は何ですか?
黄先生:韓国の人口は、5,000万人です。日本と比べると、それほど多くはありませんが、その半分がソウルとその近郊に集まっています。
日本でいうと、一都三県に2,500万~3,000万人程度が住んでいるイメージです。そう考えると、商圏としては大きな市場だと思います。人々の消費活動も活発なので一つのマーケットとして有望だと考えて進出する企業は多くあります。
また、グローバル規模の企業が韓国には何社もあるので、そこに食い込むためには韓国に拠点がないとどうしようもないっていうこともあります。
例えば、サムソン電子と取引するための条件として、現地にサービス拠点を置いて、24時間対応できるようにと条件を出されます。
なので、サムソン電子に部品とか製造機械を納品している会社が、サービス拠点として韓国進出するっていうケースは非常に多くあります。
サムソン電子だけじゃなくて、半導体のSKハイニックスや製鉄関連のポスコだったり、財閥系の会社に食い込むには現地拠点を作っておく必要があります。
日本で成功したから韓国でもいける!は間違い??
インタビュアー:時期によって業種やブームの波があるとのことですが、これまでの遍歴を教えてください。
黄先生:私が韓国ビジネスに関わったのは2002年からなので、それ以降の話になります。
まず、液晶テレビの普及期に液晶テレビ関連の製造設備、部品関係の会社が大挙して押し寄せてきました。
2004年前後でしょうか。新規進出の相談が来るたびに、「弊社は液晶関連の製造業です」と紹介されます。おかげで、液晶テレビの仕組みが良く分かるようになりました。(笑)
その後、スマホが登場してからはスマホの部品関連。例えば、スマホカメラの画像加工のためのソフトウェアを作ってる会社や、製造工程を管理するためのカメラ、センサーの会社とか、画面に貼るフィルム関連の会社も良く聞きますね。
少し前だと、モバイルゲーム関連の進出が流行った時代ありました。
ゲーム開発会社が次々に上場して、次は韓国だ!って次から次へ進出した時期があったのですが、結果として、韓国で成功した会社はほぼなかったようです。
ゲーム業界に詳しい人に聞くと、どうやら日本のゲームは、韓国人に受けないらしいです。設計自体っていうか、ゲームの理念自体が受けないらしいです。
同じような時期に、飲食業の進出ブームもありました。しかし、飲食チェーンの成功も大変なようです。
日本食は、韓国でものすごく人気があります。
ソウルの繁華街だと日本語の看板で居酒屋とか酒とか書いてるお店がたくさんあって、どこも満席です。経営者は韓国人です。
実際にそこの料理を食べると、なんちゃって日本料理みたいなのが多いので、日本から本場の味を持ち込んで、本格的な日本居酒屋をやれば大繁盛間違いなし、と思うのですが、日本企業が韓国で成功した例は極めて少ないです。
私は飲食の専門家ではないので、うまくいかない理由が何なのかよく分かりませんが、一言で言うと、サービスの現地化ができていないということなんだと思います。
食文化は、それぞれの国ごとに深く根付いたものがあるので、日本での成功パターンをそのまま持ってきても、うまく行かないんでしょうね。逆に、そのあたりをうまく調節して成功している事例もあるので、そういう事例を研究してみるのも良いかもしれません。
韓国人経営の日本食屋が繁盛しているのは、このあたりの文化の融合をうまく調節できているからなのだと思います。
直近では、人材関連の会社が韓国拠点を置く相談が多くありました。
韓国人の若者を日本企業に就職斡旋するためです。新型コロナの影響で人の移動ができなくなってしまったので、足元で目立った動きはなくなってしまいましたが、日韓経済がより密接になる象徴的な動きかと期待しています。
日韓の相互理解を深めていきたい
インタビュアー:最後に読者に一言お願いします。
黄先生:最近だと日本製品の不買運動などがニュースになって不安を感じている方も多いと思います。
ですが、報道だけに踊らされず、しっかりと相互理解を深めることが大切だと感じています。
例えば、日本のことをそんなに悪く思ってない、日本のことを大好きな人って韓国人の7,8割が当てはまると思います。
ただ、不買運動の当時は、日本に旅行行こうってSNSで呟くと見ず知らずの運動家が炎上させにくるんです。怖くて行けないじゃないですか。
居酒屋でアサヒビールを飲むと喧嘩をふっかけられてくる、みたいなのもありますね。
日本が嫌いという人よりは、一部の過激派の目を気にして自分に災いが降りかからないように自粛していたというのが正しいと思います。
不買運動の報道だけみると、まるで韓国全体が日本を嫌いであるかのようなイメージをもちかねませんが、そういったニュースに惑わされず、自分の頭でちゃんと考えるような癖をつけておくのが重要です。
私は会計士の資格を持っているため、企業の韓国進出支援や税務顧問の分野で仕事をしていますが、根底には日韓の相互理解を深めるための活動をしたいという想いがあります。
相互理解を深めるためのアプローチ方法は色々考えられますが、私は会計士なので企業会計や税務の分野で自分のできることを頑張っているという感じです。
もし韓国進出を考えている方がいらっしゃれば、ぜひお気軽に相談してもらえると嬉しいです。
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