「財産が少ない」「家族が仲が良い」だから、うちの相続は大丈夫。そう思っていませんか?
遺産相続を巡って親族が争う、いわゆる「争族」は誰でもなり得る話です。
今回は、4,000件の相続をサポートしてきた遺産相続のプロ、相続終活専門協会代表理事の江幡氏に揉めない相続のポイントを教えていただきました。
具体的な相続争いのエピソードも多数ご紹介しています!
江幡 吉昭 氏
一般社団法人相続終活専門協会代表理事/アレース・ファミリーオフィス代表取締役/株式会社アレース・リアルエステート代表取締役/アレース・ホールディングス株式会社代表取締役
1999年大学卒業後、住友生命保険に入社。その後、英スタンダードチャータード銀行にて最年少シニアマネージャーとして活躍。2009年、経営者層の税務・法務・財務管理・資産運用を行う「アレース・ファミリーオフィス」を設立。以降、4,000件以上の争族案件を手がけた「相続のプロ」。数多くの相続争い(争族)を経験する中で、争族を避けるノウハウを確立。
そうした知見を幅広く認知してもらう目的で「一般社団法人相続終活専門協会」を設立し、代表理事に就任。近著に『プロが教える 相続でモメないための本』(アスコム刊)などがある。遺言・争族情報のポータルサイト「遺言相続.com」の運営も手がける。
最新著、『プロが教える 相続でモメないための本』はこちら。
相続は専門家一人で対応できる問題ではない
インタビュアー:江幡さんが相続支援を始めようと思ったきっかけは何ですか?
江幡氏:2つあって、1つ目は前職の銀行時代に相続に関わる仕事をしていたこと。
日本からは既に撤退してるプライベートバンクだったんですが、富裕層のお客様に徹底的に密着して支援するようなところで働いていました。
お金持ちのお客様の悩みの多くは相続なんです。親から生前に事業をどうやって承継するか、相続税をどう節税するか、といったところで非常に苦労している姿を目にしたのが1つです。
2つ目は、私の親族の相続トラブルです。
私の母親と叔父の間で起きたトラブルなのですが、両親は既に他界していたので、叔母が亡くなった際に私の母とおじが相続人になったのですが、そこで結構な争いがありました。
そうした相続争いを間近で見てきたというのが大きなきっかけです。
インタビュアー:現在は、どのような支援を行なっているのですか?
江幡氏:相続に関して、亡くなる前から亡くなった後までの全てのフェーズで支援を行なっています。
当社グループには、税理士や弁護士、司法書士がいますので、基本的には全部できると言っても差し支えありません。
例えば、生前の相続対策でいうと、節税対策から遺言作成のアドバイスをしたり、後は、二次相続対策なんかもありますね。
両親の相続の内、2回目の相続を二次相続といいますが、これがよくトラブルのもとになります。
インタビュアー:相続に関する相談先としては他にどういったところがあるのでしょうか。
税理士や弁護士など色々いますよ。
特に相続というと、相続税のことから税理士を思い浮かべる方が多いのですが、そもそも相続税の申告をする人は年間5万人、それに対して税理士は7万人。税理士一人当たり年間1件の相続税申告をやるかやらないかという計算になりますよね。
なので、税理士といっても実は相続の実績があまりないケースなどもあるので、そこは見極めが必要です。
インタビュアー:数ある専門家の中で貴社ならではの強みや特徴は何でしょうか。
江幡氏:相続と一口にいっても、やらなきゃいけない仕事が広すぎて、一人でできる問題じゃないんです。
例えば、相続税の申告は税理士が行いますが、遺産分割で揉めた時は弁護士が対応しますし、不動産の名義変更は主に司法書士の仕事です。相続した不動産の処分などは宅建士が担いますが税法を無視して売却してしまうケースも多く、相続税を払ったのに追加で所得税を多額に払ったという話もよく聞きます。弊社では税理士と密にチームを組みながら売却を行います。
なので、相続の専門家は色々いるけれど、専門家一人で対応できる問題って実は少ないんです。
我々の強みは、各専門分野の第1級の人間が所属しているので、どういった案件でもチームで対応できる点です。野球でいうと、私は監督で、1番2番3番4番と一流の人間を揃えて試合をしているイメージですね。
身近で支えてくれてた人が相続トラブルの原因に?
インタビュアー:相続トラブルでよくあるケースを教えてください。
江幡氏:良くあるのは、亡くなった人に一番近しい人が亡くなった人の口座からお金を抜いているというケースです。
亡くなった後になって「あれ?お父さん、もっとお金あるんじゃなかったの?」と発覚するケースですね。
最近の事例だと、わりと規模の大きい会社の会長さんで年収2500万円くらいの方がいました。
その方が亡くなったんですが、年収2500万あったら預金って結構ありそうじゃないですか。でも蓋を開くと600万円しかなかった。
実は、この方には20歳くらい年の離れている後妻がいて、生前も会長と一緒に暮らしていなかったんですね。
それで相続人の一人である最初の奥さんの子供が銀行の預金取引明細書を調べてみたところ、後妻がATMの出金最大額1日50万円を毎日のように引き出して、それ以外にまとまったお金を1,000万単位とかで頻繁に引き出していたんです。
このように身近な人がお金を使い込んで、後からそれが発覚してトラブルになるというのはよくある話ですね。
他に、子供が二人いてよくあるのが、一人は転勤で地方で暮らしている、もう一人は地元で両親のそばに住んでいるケース。
親が体調崩したから生活費を銀行に行ってお金おろさなきゃとか、そういった諸々の手続きを任されている子供が気づいたらかなりのお金を引き出している。
50万円引き出して、20万円を母親に渡して、30万円を自分のポッケに入れて・・・みたいな、そういうのは非常によくある話ですね。
インタビュアー:相続で揉める家族に、傾向や共通点はありますか?
江幡氏:まず、バツが付いている場合。さっきの年収2,500万円の会長さんが亡くなった話もそうですが、前妻、後妻、それぞれの子供がいると揉めやすいというのが挙げられます。
後は、会社経営者や資産家は、引き継ぐ財産が高額になるので、とくに注意が必要です。
といっても実は、相続トラブルって財産が少なくても起きます。
例えば、数百万円の単位だったとしても、ちょっと頑張ったら貰える金額が100万円増えるんじゃない?ってなったら頑張っちゃうじゃないですか。
財産がないと揉めようがありませんが、金額が少ないから大丈夫、というのは誤った認識。誰にでも起こりうる話だと理解しておいてください。
インタビュアー:相続で揉めないためにこれだけはやっておくべきという対策はありますか?
江幡氏:ずばり、遺言を書くことです。
逆説的な話になるかもしれないですが、お金があっても揉めるし、無かったら無かったで数百万円でも揉めるので、故人はビシッと遺言を書いておくことが重要です。
相続って事前準備が9割だと思うんですね。
揉める、揉めないっていうだけの話であれば、やっぱり遺言がベターな選択です。
皆さん勘違いされるのが、銀行口座のリストアップとか、SNSのPWつけておくとか、荷物は片付けておくとか、断捨離とか、そういうのもすごく大事なんですが、そういうのは亡くなった後も、遺族が頑張ればできることだし、お金払えば外部の業者がやってくれること。
なので、生前に本人にしかできないことって、実は、遺言書くことのみと言ってもいいくらいなんですね。
終活も大事ですが、一番最初は本人にしかできないこと、遺言を書いておいてくださいねというのは皆さんに伝えています。
もちろん、それ以外にも遺族が面倒くさくないようにSNSアカウントどうするか、税金対策どうするか、っていうのもあるんですが、色々言うとキリがないので、分かりやすくいうと遺言を書いて欲しい。これに尽きますね。
インタビュアー:遺言を書いていたとしても、心情的に納得できずトラブルになるケースもあるそうですね。
江幡氏:はい。遺留分を無視して全財産をあげるとなると、それはまずいので最低でも遺留分は相続をさせなきゃいけない。
そういうのをきちんとしていれば、原則相続人の人たちは遺言があることで、ぐうの音も出ないっていうのが正直なところです。
もし心情的に納得いかない親族がいそうな場合は、付言事項といって、遺言の最後のところで遺族それぞれに故人からのメッセージを伝えておくこともできます。
そこで労いの言葉や財産配分の理由をしっかりと残しておけば、心情的なわだかまりは多少残るにせよ大きなトラブルは抑えられる可能性が高いです。
長男の嫁が知らぬ間に父の養子になっていた!?
インタビュアー:過去に印象に残っている相続支援のエピソードはありますか?
江幡氏:パンチが効いた話だと、長男の嫁が義理の父の養子に知らない間になっていたという話があります。
その家族には、長男・長女がいて、相続以前から長男の嫁と長女は不仲だったようです。
それで父が亡くなった際、母親は既に亡くなっていたので、長女としては、法定相続分は長男長女で2分の1ずつだろうと思っていたところ、戸籍を見ると子供が3人に!それが長男の嫁だったんです。
父からの遺言もちゃんと残ってて、長女の嫁は義父の介護を献身的に支えていたこともあって、父と長男の嫁の関係性がよかったから養子縁組に入ったということですね。
亡くなった時に戸籍謄本で初めて子供が増えていることに気付いたというのは印象的ですね。
後、両親を早くに亡くした兄妹がいて、兄が亡くなった際にちゃんと遺言を書いていて、妹に兄の財産が相続されたって話があります。
これって当たり前の話に思うじゃないですか。ご両親がいなくて、お兄さんが一人身で、遺言書いてたから妹に財産いったって。
けど、実は、祖母が生きてたんですよ。
そうなると、相続の第二順位って親と祖父母なんですね。第一は子供なんですが、子供いないんです。第二順位が親と祖父母、第三順位は兄弟姉妹になりますが、第一、二順位の上の人がいると、下の順位の人は相続人から消えちゃうんです。
なので、法律通りに考えると祖母に財産がいっちゃうところを、遺言を残すことで妹に渡すことができたんです。祖父母に行くっていうのは皆さん結構知らないことなので、これも印象的なエピソードです。
インタビュアー:最後に、読者の方に一言アドバイスをお願いします。
江幡氏:相続は、世の中の仕事や勉強と同じで事前準備が9割だと思うんです。
亡くなるって後ろ向きの話じゃないですか。なので向き合うのが面倒だったり、気が進まなかったりすることもあると思いますが、やはり真正面から、なるべく早く受け止める方法が、本人も後の子供達も助かるっていのは間違いなくあると思います。
また、専門家選びも大事です。あまり実績がないにも関わらず報酬が大きいという理由で相続対策やってますという人もたくさんいます。それをちゃんと見極める必要があります。
例えば、仲が良いからという理由だけで馴染みある税理士に頼んだりするのは絶対避けた方がいいです。
相談しやすいってことはあるかもしれませんが、骨折した時に仲がいいからって眼科医にいきますか?というのと同じで、適切な人に頼まなければ意味がありませんよね。
もし将来のことで不安な方はぜひお気軽に相談にきてください。この活動は社会的意義があることだと思っていますので我々は時間の許す限り、相談に乗らせていただきます。
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