2017年10月22日の投票に向けて衆議院の解散総選挙が始まりました。
中でも一番の話題をさらっているのが小池百合子東京都知事が結成した「希望の党」ではないでしょうか。
そんな小池都知事率いる「希望の党」が公約で「配偶者控除の廃止」を掲げていることを知っていますか?
妻が専業主婦でパートをしている家庭など、サラリーマン世帯の多くが配偶者控除を利用しています。
もし配偶者控除が廃止されると、日本の多くの家庭が影響を受けることになります。
実は既に2018年から配偶者控除の改正が行われることが決まっています。詳しくは下の記事を見てください。
配偶者控除が変わる!2018年からの改正点を解説
ではなぜここに来てさらに廃止の議論が起きているのでしょうか?
この記事では配偶者控除廃止の議論とその歴史的背景、実現の可能性について解説します。
配偶者控除とは?
最初に配偶者控除とは何かを簡単にまとめました。
それぞれの用語の説明です。
控除:差し引くという意味です。例えば「給与所得控除65万円」ならば65万円を引くという意味です。
所得:収入 - 経費 - 控除
所得税や住民税は所得を基に計算されます。
配偶者控除:配偶者の所得が38万円(収入103万円)以下の場合、自分の所得から38万円を控除できる制度
配偶者特別控除:配偶者の所得が38万円(収入103円)を超えた場合に配偶者控除から切り替わって適用される。控除枠は段階的に縮小される
Aが会社員、Bが配偶者
画像:国税庁ホームページから引用
専業主婦がいる世帯にとって配偶者控除を利用すれば納める税金を減らすことができます。
稼ぎ頭が旦那一人だということを考えると、とても重要な制度だと言えます。
配偶者控除が廃止されるとどのぐらい増税になる?
配偶者控除を活用している家庭は多いと思います。
具体的な数字をもとに配偶者控除が廃止されると一体どのくらいの増税になるのか見てみましょう。
例)会社員の夫と専業主婦の配偶者の二人世帯
夫の年収は400万円で妻はパートで年103万円の収入
二人の所得税を計算します。
まず収入から所得を計算すると
妻の所得:103万円 - 38万(基礎控除) - 65万(給与所得控除) = 0
夫の所得:400万円 - 38万(基礎控除) - 134万(給与所得控除) - 56.9万(社会保険控除) - 38万(配偶者控除) = 133万
次に所得税の計算をします。
妻の所得税:0 × 5%(所得税) = 0
夫の所得税:133万 × 5%(所得税) = 6.65万
≪配偶者控除が無くなった場合の所得税≫
妻の所得税:0 × 5% = 0
夫の所得税:(133万 + 38万) × 5% = 8.55万
配偶者控除が無くなった場合の所得税の増税額
8.55万 - 6.65万 = 1.9万円
上の計算からわかる通り、夫の年収が400万円の場合、配偶者控除が有ると無いとでは年間の所得税が約2万円違ってきます。
これに加えて住民税も同じように計算されるので増税になります。
ちなみに日本の男性の平均年収は521万円です(平成27年度「民間給与実態統計」より)
夫が年収500万円の会社員で妻が専業主婦世帯の場合、配偶者控除が廃止されると所得税と住民税合わせて年間7.1万円の増税になります。
具体的な金額で見ると決して小さい額ではないことが分かりますよね。
配偶者控除についての議論
なぜ今になって配偶者控除の改正や廃止が盛んに議論されているのでしょうか?
その原因を知るためにはまず配偶者控除が導入された時代背景を理解する必要があります。
1961年に制度ができる
配偶者控除が誕生したのは1961年と今から50年以上前になります。
その頃の日本は高度経済成長期で経済が急速に発展するとともに、都市の企業に勤めるホワイトカラーが急増しました。
稼ぎ手の男性の年収が上昇したことで、女性は外に出て働かなくても豊かな生活を維持できるようになりました。
国民的アニメの「サザエさん」に代表されるように、旦那はサラリーマンとして会社勤め、妻は専業主婦として家事や子育てをするのが理想とされていた時代です。
配偶者控除は専業主婦が主流だった時代背景の中で、妻の「内助の功」や子育ての役割を評価するために制度が拡充、現在まで維持されています。
女性の社会進出
しかし、近年女性の社会進出がどんどん進むとともに配偶者控除の是非が問われるようになりました。
下のグラフを見てください。
男女別昭和60年と平成22年の労働力率
引用:総務省統計局の資料より
男性は昔と今でほとんど変わらず、20~60歳成人の労働力率は100%に近い水準を保っています。
一方で女性は昔と比べ現在のほうが労働力率がずっと高いことが分かります。
昔の女性は結婚すると仕事を辞めてしまい、子供が大きくなってから再びパートなどで働き始めるため労働力率は「M字カーブ」を描くと言われていました。
しかし、現在では結婚後も仕事を続ける女性が増えたため、全体的にグラフが上昇しM字の凹みが小さくなっています。
現代では専業主婦の世帯よりも共働き世帯が多くなっているのです。
さらに他国と比較した下のグラフを見てください。
日本、アメリカ、ドイツの女性労働力率比較
引用:日本経済新聞より
よく日本は専業主婦が多く、欧米と比べ女性の社会進出が進んでいないと言われますが、最新のデータでは日本は欧米諸国とそん色ないほど働く女性の割合が高いことが分かります。
専業主婦世帯が主流だった時代から夫婦共働きへ時代が変わってきているのです。
配偶者控除廃止の議論
現在共働き世帯は1077万世帯で、専業主婦世帯の720万世帯を大きく上回っています(男女共同参画白書:2014年)
配偶者控除の廃止の議論が起こっている大きな理由は、配偶者控除が専業主婦にとって有利な制度だからです。
昔のように専業主婦が主流だった時代であれば不都合はなかったのかもしれませんが、共働き世帯が増えた現在、専業主婦のみを優遇する制度をそのままにしておく合理的な理由がなくなってしまったのです。
また、少子高齢化で労働力不足が深刻な問題になる中、政府は女性の社会進出を促進したい思っています。
専業主婦を優遇する制度を廃止すれば専業主婦を新たな労働力に迎えることができ、労働力不足の問題解決に繋がるかもしれないからです。
2018年に廃止されるはずが…
実は過去何回も配偶者控除を見直そうという議論は起こっています。
民主党は2009年の衆院選で配偶者控除廃止のマニフェストを掲げ政権を獲得しましたが、民主党政権では毎年実施を先送りにしてきました。
安倍政権でも2017年度税制改正で配偶者控除を廃止しようとしました。
ですがこちらも実施は見送られ、逆に2018年から配偶者控除が拡充されることになりました。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
配偶者控除が変わる!2018年からの改正点を解説
配偶者控除の廃止でメリット・デメリットを受ける人
メリットを受ける人
配偶者控除の廃止でメリットを受けるのは共働きの世帯だと考えられます。
直接的なメリットはありませんが、政府は浮いた財源を共働きの世帯の支援に回すことになるでしょう。
女性がバリバリ働いている家庭では税制面などで今までよりも優遇を受けることになるでしょう。
デメリットを受ける人
デメリットを受けるのは専業主婦(夫)の家庭です。
実質的に増税になるので、ただでさえ旦那一人の稼ぎしかないのにさらに家計が苦しくなると思われます。
主婦でも収入を維持するためには今までよりたくさん働く必要があるでしょう。
家事や子育ての面で旦那の負担が増えることになるかもしれません。
希望の党は配偶者控除を廃止できるのか?
まずは小池都知事率いる「希望の党」の選挙公約を見てください。
希望の党の公約要旨
【税・財政】
金融緩和と財政出動に過度に依存せず、民間活力を引き出す「ユリノミクス」を断行する。
2019年10月に予定されている10%への消費税引き上げは凍結する。
消費増税の代替財源として、約300兆円もの大企業の内部留保への課税を検討する。
ベーシックインカム導入で低所得層の可処分所得を増やす。
<中略>
【教育・子育て】
「待機児童ゼロ」の法的義務付け。
配偶者控除を廃止し夫婦合算制度へ移行する。
幼児保育・教育の無償化、大学の給付型奨学金を大幅拡充する。
引用:日本経済新聞
公約で配偶者控除の廃止が明記されています。
もし希望の党が選挙で多くの議席を獲得した場合、配偶者控除は本当に廃止されるのでしょうか?
廃止に加えて抜本的な調整が必要
多くの世帯が利用している配偶者控除を単純に廃止するだけでは激しい反発が予想されます。
所得税、住民税の実質的な増税になるからです。
共働きの世帯でも子育ての期間は主婦に専念したいという希望は多く、全ての共働き世帯が廃止に賛成しているわけではありません。
実際に過去何度もあった配偶者控除廃止の試みもことごとく頓挫しています。
もし本当に配偶者控除を廃止したいのであれば、基礎控除の拡充や夫婦控除の創設など、今まで控除を受けていた世帯にとって過度な負担にならないように調整が必要だと思われます。
実際に希望の党では配偶控除を廃止する代わりに「夫婦合算制度」を導入すると謳っていますが、これが具体的にどのような制度かはまだはっきりしておらず、今後の展開に注意が必要です。
まとめ
配偶者控除の廃止議論についてまとめました。
配偶者控除は2018年から改正される予定ですが、選挙次第では今後廃止を含めた更なる変化があるかもしれません。
多くの家庭にとって非常に切実な問題だと思います。
今配偶者控除を利用しているという家庭はニュースをしっかりとチェックして今後の動向を注意深く見守っていく必要があるでしょう。
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