不妊治療費用は医療費控除の対象!還付に必要な手続きは?

不妊治療 医療費控除

結婚後、通常の夫婦生活を送っている場合は1年で80%、2年で90%の夫婦が赤ちゃんを授かると言われていますが、その一方で、現在では、夫婦のおよそ5組に1組が不妊治療や不妊の検査を受けています。

医療費控除と聞くと、ケガや病気でかかった費用をイメージする方が多いかもしれませんが、実は、妊活や不妊治療にかかった費用も医療費控除の対象となります

一般的に不妊治療は高額になることが多く、タイミング法で1回数千円、人工授精では1回数万円、体外受精では20万円から60万円もの費用がかかります

また、保険適用外となる治療も多くお金の面での負担も少なくありません。

医療費控除を利用することで、所得税・住民税の還付というカタチで実質的な支払いを減らすことができます。

ただし、不妊治療には、医療費控除の対象となる費用とならない費用が存在します。

そこで、今回は、医療費控除の対象となる不妊治療費用・ならない費用から確定申告の方法について解説していきたいと思います。

不妊治療費は医療費控除を使えば還付金を受け取れる

妊活・不妊治療費用は、医療費控除の対象にできます。

例えば、妊娠の確認のために病院で検査を受ける場合、その費用は医療費控除の対象となります。

ただし、医療費控除の対象となる費用は細かく決まっていますので、どの費用が控除対象でどれが対象外となるのか把握しておく必要があります。(詳しくは後述します)

例えば、基本的に薬代は控除の対象になりますが、ドラッグストアで購入した妊娠検査薬・排卵検査薬は、直接的に治療や療養に必要な薬と認められていないため、例外的に対象になりません。

一般的に、妊活の平均費用は約35万円と言われていますが、特定の不妊治療を受けるとなると約数百万円かかるケースもあります。

不妊治療や人工授精などの費用は妊娠の結果に関わらず、医療費控除の対象にできるため、正しく申請することで、支払った金額を税金還付という形で取り戻ることができます。妊活中のご夫婦はぜひ利用するべき制度といえるでしょう。

次からは対象となる具体的な不妊治療費用をみていきましょう。

医療費控除の対象になる不妊治療費用

ここではまず、医療費控除の対象にできる不妊治療の費用を確認していきます。

①:人工授精・体外受精等の費用

人工授精は、人工授精を行う前の検査の後に実際に人工授精に入ることになります。また、その後にも黄体の管理も必要となります。

これらを全て合わせると、約46,000円〜51,000円となります。

内訳としては、検査費用が20,000円〜25,000円、人工授精から黄体管理までが24,000〜26,000円となります。

一方、体外受精は2〜5日間かけて行われます。排卵から体外受精、初期胚、胚移植までそれぞれに費用がかかります。

これらを合計した体外受精の費用は平均で約20万円〜60万円と言われています。

人工授精・体外受精共に保険適用の対象外なので自費での負担になります

なお、不妊治療をはじめとした自由診療の費用は、医療費の自己負担額を軽減する高額療養費制度の対象外となるので注意してください。

②:採卵消耗品

採卵針などの排卵消耗品にかかった費用は、医療費控除の対象となります。

病院での診察や診療を受けるため購入した医療用器具は、医療費の範囲内ということになります。

③:卵子凍結保存料・保管料

卵子凍結保村料・保管料は、不妊治療の一つとして医療費控除の対象となります。

卵子凍結保存の多くの場合は、卵子が老化する前に出来るだけ若い卵子を取り出して凍結保存し、流産するのを防ぐために使われます。

これは体外受精で行う場合も医療費控除の対象となります。

卵子凍結保存は、容器1本あたり5万円ほどで、1年間有効となっています。

④:マッサージ指圧師・鍼師・柔道整復師への施術費

意外に思われた方もいるかもしれませんが、マッサージ指圧師・鍼師・柔道整復師による施術費用は、医療費の範囲内として認められ、医療費控除の対象となります。

費用としては病院によって異なると思いますが、腹部のみの子宝マッサージは約5,000円ほどで、全身になると約12,000円となります。

⑤:病院までの交通費

不妊治療を受けるために、電車やバス、などの公共交通機関を利用する方も多いと思います。

また、電車やバスだけでなく、急に体調が悪くなった場合のタクシーや遠い場所からくる場合は新幹線や飛行機を利用することもあるではないでしょうか。

そういった場合の通院費も医療費として考えられ、医療費控除の対象となります。

しかしながら、自家用車で通院する場合のガソリン代や駐車場代は医療費控除の対象外なので注意してください。

また、自宅や出先などで急な陣痛が始まった場合に利用する公共交通機関やタクシーなどは対象になりますが、出産のため実家に帰省する際の交通費は対象外となるので注意しましょう。

⑥医師の紹介料

現在治療を受けている医師から他の病院を進められたの紹介状の手数料は医療費控除の対象となります。

紹介状の手数料だけというのがポイントです。

他の病院を進めても治療は続くため、それ自体も治療行為の一環として考えらるようです。

紹介状自体も医師の診断・治療による対価として医療費の範囲となります。

医療費控除の対象にならない不妊治療費用

次に控除の対象にならない治療費を確認しましょう。

①:宿泊費・入院中の差額ベッド代

宿泊費や入院中にかかる差額ベッド代は医療費控除の対象外となっています。

差額ベッド代とは、1〜4人部屋に入室した際にかかる費用のことで「特別療養環境室料」とも言います。

医療費控除の対象になるものは、基本的に医師の治療に直接関わるものや必要なものとされています。ですので、個人の都合による費用は対象とならないのです。

逆を言えば、治療上必要な場合は差額ベッド代は支払わなくてもよくなります。

差額ベッド代の平均額は、以下のようになっています。

  • 1人部屋:7,828円
  • 2人部屋:3,108円
  • 3人部屋:2,863円
  • 4人部屋:2,414円

となっています。

1人部屋になると急に値段が上がることがわかりますね。

②:妊娠検査薬・排卵検査薬等の検査費

妊娠検査薬や排卵検査薬は医療費控除の対象外となります。

実際に病院で検査を受ける前に、ドラッグストアで購入した妊娠検査薬を試してみてから実際に病院に行くというケースも多いと思います。

ですが、この場合は医師の診療のための薬とはならないので医療費控除の対象外となります。

ちなみに市販の薬を購入する場合の値段としては、妊娠検査薬は300円〜500円、排卵検査薬は2,000円〜3,000円程度となっています。

③:妊活サプリ・健康食品の購入代

男性でも女性でも妊娠するために必要な栄養をサプリメントや健康食品を利用する場合、これも医療費控除に含まれません。

治療や療養に必要な医薬品のみ医療費として認められるため、健康のためであったり予防のためのものは範囲外となってしまうのですね。

妊活のために漢方を服用する場合も、もとより医薬品ではないので医療費控除から外されます。

④:マタニティエクササイズの利用料

先ほど、マッサージ指圧師・鍼師・柔道整復師の施術を受ける際の費用は医療費控除に含まれると説明しましたが、マタニティエクササイズは医療費控除の対象外となります。

資格を保有している人が行なっている場合は控除対象です。

なので、マッサージ師やはり師なども資格を持っている人が行う場合に限って医療費控除の対象となります。

資格を持たず、美容のためであったり、医療関係設備外でのマタニティヨガの受講料などは対象外となるわけです。

また、医師による診療等を受けるために直接的に必要なものでもないため対象外とされています。

⑤:出生前遺伝学的検査代

現在では、DNAに関する研究が進んだおかげで出生前遺伝学的検査を受ける妊婦も増えてきています。

この検査により、胎児の染色体の数的異常を調べることができますが、たとえ異常が発見されたとしても今日では治療に繋がらないとされ、医療費控除の対象外となっています。

医療費控除でどれくらいのお金が戻ってくる?還付はいつ頃?

合計医療費10万円を超えた部分が控除できる

医療費控除を申請する際に医療費が10万円以上であることが求められます。

そもそも医療費控除とは、医療費が10万円を超えた場合や総所得が200万円未満はその総所得の5%を超える場合に所得税および住民税が減税される仕組みです。

たとえば、総所得が180万円の場合は180万円×0.05=9万円となり、医療費が9万円を超える場合は医療費控除の対象となります。

実際に医療費控除でいくら戻ってくるのか(還付金)の計算式をご紹介したいと思います。

医療費控除の計算式は総所得が200万円以上か、200万円未満かで違ってきます。

  • 総所得が200万円以上の場合

1年間で払った医療費ー保険金等で補填される金額ー10万円

  • 総所得が200万円未満の場合

1年間で払った医療費ー保険金等で補填される金額ー総所得の5%

例えば、総所得が800万円の人の1年間の医療費が50万円、補填される金額が10万円だったとします。

これを総所得が200万円以上の場合の計算式に当てはめてみると、

医療費控除額=50万円ー10万円ー10万円=30万円、となります。

ですが、ここで注意が必要なのが30万円は控除額なだけで、30万円丸々差し引かれるという訳ではありません。

課税される所得金額税率控除額
195万円以下5%0円
195万円超え 330万円以下10%97,500円
330万円超え 695万円以下20%427,500円
695万円超え 900万円以下23%636,000円
900万円超え 1,800万円以下33%1,536,000円
1,800万円超え 4,000万円以下40%2,796,000円
4,000万円超え45%4,796,000円

国税庁の所得税率「所得税の速算表」を参考

ここから、いくら所得税が少なくなるかを求めていきます。

課税所得勢が700万円だった場合の所得税率が23%なので、医療費控除額の30万円に23%を掛けた額が、実際に所得税から引かれる金額となります。

  • 還付金=医療費控除額×所得税率=30万円×0.23=6.9万円

6.9万円が本来払うべき所得税から引かれることになります。

還付金を受け取るタイミングは?

医療費控除の申請をした後、還付金はいつ頃戻ってくるのでしょうか?

所得税に関しては、早くても確定申告から3週間、遅くても1ヶ月半後には帰ってくるようになっています。

住民税は帰ってくるのではなく、翌年の6月から支払う分が減税されるということですね。

こういった、受け取るタイミングについても知っているといないとでは気持ち的にも大きく違うと思います。

医療費控除の申請は確定申告で。申告の流れは?

医療費控除の申請を行う際気をつけなくてはならないのが、医療費控除は年末調整の対象外であるということ。

その代わりに自分で確定申告を行う必要があります。

医療費控除の確定申告の流れ

ここでは、医療費控除の申請までの流れを解説したいと思います。

  1. 医療費控除の対象となっているかを確認
  2. 医療費控除に必要な書類を集める
  3. 書類を税務署に提出
  4. 還付金の確認

まずは自分が医療費控除の対象となるのかを確認してください。

次に、医療費控除に必要な書類を集める必要があります。必要な書類については次で詳しく解説します。

書類が集まったら、税務署に提出し、還付金が振り込まれているかを確認して終了となります。

医療費控除に必要な書類

医療費控除の明細書

支払先が多く分かれている場合や医療費額が高額な場合に確定申告書の提出するときに添付するか、提示します。

源泉徴収票

会社員の場合提出。また、提出の際は源泉徴収票の原本を提出する必要があります。

確定申告書Aまたは確定申告書B

確定申告書A:所得の種類が給与所得や公的年金等・その他の雑所得、配当所得、一時所得のみで、予定納税額のない人。会社員の人はAを提出します。

確定申告書B:自営業の人や事業所得、不動産所得がある人、誰でも利用可能です。

医療費の領収書

平成29年から領収書を添付する必要がなくなりました。領収書を添付して申告しても大丈夫ですが、「医療費の明細書を作成する」か「健康保険組合等から送られてくる医療費通知書を添付」すればよくなりました。

領収書は添付する必要がなるなったと言いましたが、領収書は5 年間保管する必要があります。明細書の記入内容確認のために提出または提示を求められることがあるためです。

医療費通知書

健康保険組合等から送られ、下記を記入する必要があります。

  • 健康保険の加入者等の氏名
  • 療養を受けた年月
  • 療養を受けた本人の名前
  • 療養を受けた病院、診療所、薬局などの名称
  • 支払った医療費の額
  • 健康保険組合等の名称

妊活中の夫婦が覚えておきたい医療費控除の豆知識

5年前まで遡って申請可能

還付申告は、確定申告期間外でも5年前まで遡って申告することができます。

過去5年間で10万円を超えて自己負担した年があったら、医療費控除を受けられるのです。

共働き夫婦は所得が高い方が請求するとお得

夫婦が共働きの場合はどちらが申請した方が良いのでしょうか?

どちらも総所得が200万円を超えているいるのであれば、所得の高い方が戻ってくる金額も大きなります。

所得税は累進課税制度を採用しているため、所得が高い方がその分税率も高くなり、還付金を大きくなります。

ですが、どちらかの総所得が200万円を超えていない場合は、所得の5%が医療費控除となるため、所得の低い方が得する場合もあります。

夫婦の医療費を合算できる

夫婦の場合、医療費をまとめて申告することができます。

医療費控除の対象の条件として、「自己又は自己と生計を一にする配偶、またその他の親族のために支払った医療費であること」とされています。

なので一緒に暮らしてはいても、未婚のカップルの場合は合算して申告をすることができなくなっていしまいます。

高額な費用がかかる不妊治療を行う際は、助成制度を活用しよう

各自治体で実施している「特定不妊治療助成」をご存知でしょうか?

特定不妊治療助成は、高額な治療費がかかる特定不妊治療のための、医療保険が適用されない治療費の全部または一部の助成をしてくれる制度です。

以下で東京福祉保健局を例にご説明したいと思います。

平成31年から検査開始日における妻の年齢要件を35歳未満から40歳未満へと対象年齢が広くなり、また、一回の治療につき所得制限額を905万円未満と緩和しました。

病院・診療所での不妊検査、一般不妊治療にかかった費用に関して、5万円を上限に助成を行なっています。

夫婦でも対象となる検査の内容が異なるので、表を使って分かりやすく見てみたいと思います。

不妊検査一般不妊治療
精液検査、内分泌検査、画像検査、精子受精能検査、染色体・遺伝子検査など待機療法(タイミング指導)、薬物療法、人工授精
超音波検査、内分泌検査、感染症検査、配管疎通性検査

こららの治療を受けている場合、検査開始日から1年以内に申請しなければなりません。

申請に必要な書類は以下の通りです。

  • 不妊検査等医療費助成申請書
  • 不妊検査等助成事業受信等証明書
  • 住民票の写し
  • 戸籍全部事項証明書

助成額は段階によって異なります。

  • 治療ステージA・・・20万円
  • 治療ステージB・・・25万円
  • 治療ステージC・F・・・7.5万円
  • 治療ステージD・E・・・15万円

助成回数も年齢によって変わってきます。

  • 妻の年齢が39歳以下・・・通算6回まで
  • 妻の年齢が40歳より上・・・通算3回まで

 

不妊治療についてはこれまで健康保険の適用外となるものがほとんどでしたが、政府は、こうした状況が子作りを断念する原因にもなっているとし、不妊治療の保険適用を検討しています。(2020年「全世代型社会保障改革の中間報告書」より)

保険適用がいつ頃実現するかはわかりませんが、医療費控除や助成制度など現状で使える制度は活用しない手はないと思います。

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