相続では、現金や家、土地、車といった財産だけではなく、借金のようなマイナスの財産も同時に引き継がなければなりません。
そのため、亡くなった故人に多額の借金が判明し、債務を逃れるために相続人全員が相続を放棄するというのは、よく耳にする話です。
それでは、全員が相続を放棄した場合、残った財産や借金はその後どうなるのでしょうか?
全員が相続放棄をした後の流れ
弁護士等の管理人が清算を進め、残った財産は国庫へ
全員が相続を放棄したといっても、財産や借金自体がなくなるわけではありません。
そこで、民法では、このように宙ぶらりの状態になった相続人不在の財産がでたタイミングで「相続財産法人」という遺産の清算を目的とした法人が作られるよう決められています。
この相続財産法人は相続人の誰かが登記しなければいけないというわけではなく、法律にのっとり自動で創設されます。
次に、相続財産法人が設立されたら、財産の清算を行う「相続財産管理人」が家庭裁判所によって選任されます。
相続財産管理人は、財産や借金がどれくらいあるかの調査を行い、財産を競売等で換金し、債権者に対して、借金の返済などを行う役目を担い、一般的には家庭裁判所のリストに沿って弁護士が選任されるケースが多いようです。
債務を返済した後に残った財産は国庫へ帰属し、国のものとなります。
残った財産は相続人がもらえるのではないか?と思う人もいらっしゃるかもしれませんが、一度相続放棄をしたらそれは出来ません。
なお、相続財産管理人は、相続財産法人と違い、自動で選任されるわけではなく、相続放棄した相続人や故人の債権者(お金を貸していた人や会社)、特別縁故者(長年故人の看病などをしていた人等)が家庭裁判所に申し立てしなければいけません。
この相続財産管理人の申し立てには注意点があるので、後述します。
財産管理人が選定されるまでは、相続人に管理の義務がある
相続人は相続放棄したらあとは管理人にお任せ!でいいかというと、そうではありません。
相続人には、財産管理人に管理を引きつぐまでの財産管理責任が発生します。
現金や株などの財産であれば、誰かが管理しなくても腐敗などする恐れはないので問題ありませんが、例えば、不動産や車、農地や土地といった財産がある場合は別です。
そうした財産は人が管理をしなければ、災害等で隣の家に損害を与えたり、雑草が生い茂り害虫が発生するなどの可能性があります。このような損害の賠償責任は、管理責任がある相続人に発生する可能性があります。
そのため、財産放棄をしたから後はOKということにはいかないのです。
相続財産管理人の申し立てには費用がかかる!
相続人には、こうした管理責任があることから、なるべく早く相続財産管理人を決めたいところですよね。
前述したように、相続財産管理人を選任するには、誰かが家庭裁判所へ申し立てを行う必要があります。
故人に多額の借金がある場合には、お金を貸した債権者が財産管理人選任の申し立てをするケースがありますが、中には債権者がいても申し立てを行わないというケースもあります。
それは、相続財産が少なく借金の返済が期待できない時です。
実は、相続財産管理人の選任申し立てには、少なくないお金がかかります。
相続財産管理人の報酬は、相続財産の一部から支払われますが、もし財産が少なければ、管理人は報酬を得られないかもしれません。
その時に備えて、家庭裁判所に申し立てする際には、申立人は、予納金と呼ばれる100万円程度のお金を支払わなければならない可能性が高いです。
つまり、債権者にとっては、予納金を支払ってまで申し立てをしても、結果としてお金を取り戻せず、むしろ申し立て費用でマイナスになるのであれば、申し立てを諦めてしまいます。
このような状況から財産の管理人が決まらなければ、相続人は相続放棄をしたにも関わらず、引き続き財産の管理をし続けなければなりません。
しかし、かといって、自ら家庭裁判所に申し立てをすると同様に100万円程度の予納金を支払う必要がでてきてしまいます。
相続財産の放棄にはこのような複雑な事情や専門的な内容が絡んでくるため、判断に迷う肩は、事前に弁護士等の専門家に相談してみることをおすすめします。
相続放棄は意思表示だけではダメ!いつまでに何をすればいい?
相続放棄は、相続が開始されてから3ヶ月以内に行う!
相続放棄をするには、自分の相続を知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所へ申し立てを行わなければなりません。
相続放棄するから後はよろしく、と遺族内で意思表示をしただけでは相続放棄はできないのです。
もし全員が相続放棄をする時は、法定相続人の順位が高い人から順に家庭裁判所へ申し立てをし、上の順位の人の申し立てが受理されてから、次の順位の相続人が申し立てを行います。
【法定相続人の順位】
- 第1順位・・・子または孫
- 第2順位・・・父母や祖父母
- 第3順位・・・兄弟姉妹または姪甥
なお、3ヶ月という期限は故人が亡くなった日から3ヶ月ではなく、自分のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月になります。
例えば、故人を疎遠になっていた人などは、故人が亡くなって暫くしてからその事実を聞くこともあると思います。
その場合は、亡くなったことを知った日から3ヶ月のカウントが始まることになります。
全員が相続放棄しないと誰かに借金返済義務が回ってくる
故人に借金がある場合、全員が相続放棄をしないと、相続人の誰かに借金の返済義務が回ってくることになります。
前述のような法定相続人は順位が決まっており、前の順位の人が相続放棄すると、相続の権利は次の順位の人に移るようになっています。
したがって、借金等がある場合は、全員が相続放棄することが大切になってきます。
相続を放棄しても連帯保証人の義務は残る!?
ただし、故人の借金の連帯保証人になっていた場合は、相続放棄をしても、連帯保証人の義務を免れるわけではないので、返済義務を請負うことになりますので注意してください。
相続放棄に関するQ&Aまとめ
Q.相続を放棄したら生命保険や遺族年金も受け取れない?
相続放棄をしても受け取れるものもあります。
具体的には以下の通りです。
- 死亡保険金
- 死亡退職金
- 遺族年金・未支給年金
- 葬祭費
- 埋葬料
Q.相続放棄の判断が3ヶ月を過ぎそうな場合は?
相続財産の状況を調査した結果、3ヶ月内に相続するか相続放棄するかの判断が難しい場合には、裁判所に申し立てをすることでさらに3ヶ月の熟慮期間を延長してもらうことができます。
以上、今回は相続人全員が相続放棄をした場合の財産や借金のゆくえについて解説していきました。
相続をすると、借金などのマイナスの財産だけではなく、故人の連帯保証なども合わせて引き継ぐことになります。
相続放棄は3ヶ月(最大で6ヶ月)という短い期間で判断をしなければならないため、できれば生前から財産について話し合いをしたり、遺言でしっかりと目録を残しておくことが良いと思われます。
相続のトラブルは、金額の多寡に限らずどのご家庭にも起こりうる問題です。ぜひ本記事などの情報を参考に早めの相続対策を進めてください。
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