日本では全ての国民が公的医療保険に加入し、必要な医療を一定の自己負担額で受けることができます。
日本にいるとこのような医療提供の仕組みは当たり前に思えますが、世界の国々と比較すると国ごとに医療制度のあり方が異なることが分かります。
本記事では、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツといった先進国各国の医療の仕組みと、日本の医療制度の特徴をご紹介していきます。
新型コロナウイルス蔓延によって、各国で医療制度のあり方が再度問われている今、改めて世界の医療事情をみていきましょう!
世界の医療保険制度は主に3パターン
まずは世界の医療保険制度の主なタイプをご説明します。
世界の医療制度は、財源とサービス提供の2つの面から大きく以下の3つに分類されます。
- 国営システム
- 社会保険システム
- 民間保険システム
それぞれの詳細を解説していきます。
①:国営システム
国営システムとは、税金を財源とし、国民がほぼ無料で医療サービスを受けられるシステムのことです。
医療機関は、基本的に公的医療機関が中心となります。
主な国には、イギリスや北欧諸国などが挙げられます。これらの国では、原則医療費の自己負担はありません。
②:社会保険システム
国民が社会保険に加入し、国民が納めた保険料を医療費の財源としています。
日本をはじめ、ドイツやフランスなどが代表的な国です。
社会保険に加入している人は、病院の外来や入院などにかかる医療費の自己負担額が軽減される点は、多くの国で共通していますが、負担額や支払い方法などの細かい点は国によって異なります。
また、医療開業は原則自由で、国民は公的医療機関・民間医療機関を自由に選択できるのが一般的です。
③:民間保険システム
アメリカが採用している医療の仕組みです。
全国民を対象とした公的な医療保障制度はなく、公的な保障としては、高齢者、もしくは低所得者を対象とした2つの制度しかありません。
そのため、現役の労働者世帯は、国民が自ら民間の医療保険に加入し、病気や怪我などに備えています。
日本とは違う?世界各国の医療事情を調べてみた
次の世界各国の医療制度を国別でご説明していきます。
イギリス
まずは、税金を財源とした国営システムの代表的な国であるイギリスからご紹介します。
イギリスの医療制度の特徴といえば、なんといっても、患者は保険料の負担や病院での窓口負担は一切ない点です。
日本にいる私たちからすると羨ましい制度に思えますね。
一方、イギリスでは、日本と違い、患者は自由に医療機関や医師を選択することができません。
イギリス国内に住所を持つ人は、住まいの近くにある診療所に登録を行い、診察が必要になったらまずは登録した診療所で診察を受けます。
専門医の治療が必要な場合、診療医師から大病院などへの紹介状を貰わないと登録外の病院で診療を受けることができないのです。
このような仕組みで成り立つイギリス医療制度は、NHS(National Health Service)と呼ばれています。
NHS制度では、全ての病院が国営となり、医師や医療従事者は公務員という位置付けになります。
国によって病院の配置が定められているため、地方であっても診療所が不足することがないという点や、一拠点で患者が集中することが防げるというメリットがあります。
その一方で、大病院の専門医療を受けるために数ヶ月待たされるケースがあったり、財政状況が悪いと医師や看護師の給与が上がらずストライキが起きるということも過去に起きたようです。
ドイツ
世界で最も早く公的医療保険制度を確立した国であり、日本はドイツの医療制度を参考にしたと言われています。
一定所得額以下の労働者や学生、年金受給者、失業者などは公的医療保険に加入する義務がある一方、自営業者、公務員、高所得者層などは任意加入になっています。
2009年から公的医療保険に加入しない人は、民間医療保険への加入義務が課されたため、日本と同じ国民皆保険が実現されています。
また、日本の高額療養費制度と近い医療費自己負担の上限制度も存在し、年間所得の2%(例えば、所得500万円の場合は10万円まで)が自己負担額となっています。
ドイツも日本同様に、紹介状なしでも他の病院で受診すること自体は可能ですが、その場合には、10ユーロ(約1,200円)を追加で負担する必要があります。
結果として、法律で定められているわけではありませんが、ドイツでは国民のおよそ90%が自身のかかりつけ医を持っていて、基本的に何か起きたらかかりつけ医を受診するというのが慣習になっています。
フランス
フランスでは、公的医療保険に加入し、そこで補填されない分を民間医療保険でカバーするというのが一般的です。
公的医療保険に加入している場合、窓口負担は外来3割、入院2割となります。
日本と同様に医療費の自己負担額には上限がありますが、フランスでは、外来の場合はまず病院窓口で医療費全額を一旦支払い、あとから自己負担を超えた分が国から返還されるという前払い方式になっています。
かかりつけ医の制度はあるものの、患者は自由に受診先を選ぶことができます。
しかし、紹介状無しで他の病院にいくと医療費の5割が自己負担となるため、ほとんどの国民がかかりつけ医を持っているのが現状です。
アメリカ
アメリカが提供している公的医療保険には、高齢者と障害者を対象とした「メディケア」と生活保護受給者を対象とする「メディケイド」の2種類が中心で、それ以外の人たちは民間保険への加入が基本となっています。
アメリカでは、日本のように診療報酬を国が定めていません。
これは、質の高い医療には、高い対価が支払われるべきであり、そうした自由競争から医療の進歩が生まれるというアメリカ的な考え方から生まれています。
結果として、ノーベル医学賞受賞者の半数近くをアメリカの研究者が獲得するなど、アメリカの医療は世界最高水準のレベルを誇ります。
ですが、一方でアメリカの医療費は世界各国と比べても高い数値となっています。
厚労省が発表したOECD加盟国の一人当たり医療費をみると、先進国の中でも飛び抜けて高いことが分かります。
国 | 医療費(米ドル) |
アメリカ | 10,207 |
イギリス | 3,943 |
ドイツ | 5,848 |
フランス | 4,931 |
日本 | 4,630 |
2014年、オバマ大統領は無保険者の増加を受けて、公的医療保険制度に加入していない人は民間保険への加入を義務付けるという、「オバマケア」と呼ばれる改革を行いました。
これによりアメリカでも国民皆保険が達成されるはずでしたが、実際には、いまだに保険に加入するよりも保険料を払わない方が良いとの理由から無保険者が一定数いる状況です。
また、健康状態の悪い無保険者が民間保険に加入したことで保険会社の収支が悪化するなどの事態にも発展しました。
トランプ大統領は、このオバマケアの廃止を訴え大統領選挙を勝ち抜いたため、今後アメリカの医療制度が変わっていく可能性は少なくありません。
世界と比較して分かる日本の医療制度の特徴
世界の医療事情を知ると、日本の医療制度が当たり前ではないことが分かりますね。
- 保険証一枚でどの医療機関でも診療が受けられる
- 医療費の自己負担額が一定金額以内で済む
このように普段何気なく利用している医療制度が、世界からみると珍しいものであり、日本ならではの特徴だといえます。
事実、国民全員が医療保険に加入していること、どの医療機関でもフリーアクセスできる点は世界的に評価をうけており、2000年にはWHO(世界保険機関)による医療評価で世界一を獲得しています。
もちろん、少子高齢化が進む中で現状の医療制度を維持していくのは簡単なことではありません。
各国の医療制度を参考にして、良い点は取り入れるといった柔軟な姿勢も求められているのかもしれませんね。
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