起業・独立志望者に教えたい第三者承継という新たな起業のカタチ

一般社団法人ネクストプレナー協会 代表理事 河本 和真

起業や独立の手段は1つだけではありません。近年、事業承継難を背景としてじわじわと広まっているのが、自身が会社の後継者になって経営を行う第三者承継という起業スタイル。

日本ではまだ認知度が低いものの、アメリカではよく知られたサーチファンドという方法で、会社を承継・売却し、財を成した例などもあるそうです。

アメリカではサーチャーと呼ばれるこの後継者のことを日本ではネクスト×アントレプレナーの造語でネクストプレナーと呼びます。今回は、第三者による事業承継支援を行いつつ、自らがネクストプレナーとして会社を承継したという異色の経歴を持つGrowthix Capital株式会社・取締役の河本氏にお話を伺いました。

日本では数少ないネクストプレナーとして、その魅力やリアルな体験談を聞いてみました。起業、独立に興味がある方は必読です。

Growthix Capital株式会社 取締役

一般社団法人ネクストプレナー協会 代表理事 河本 和真 氏

大学院在学中にベンチャー企業を立ち上げ。2014年4月に野村證券株式会社入社、都内の支店にて証券リテール営業に従事。

2017年テック系M&Aアドバイザリー企業の創業時に参画。

2019年6月よりGrowthix Capitalの創業メンバーとして参画し取締役CFOに就任。M&A仲介業務を手がける傍ら、自ら後継者(ネクストプレナー)として事業承継を行う

自分が手がけたディールでM&A後にトラブル発生!トラブル解消のため自ら会社を承継することに!?

インタビュアー:貴社の事業内容を教えて頂けますか?

河本氏:メインはサーチファンド型のM&A仲介業務です。

サーチファンド型のM&Aというのは、元々アメリカのスタンフォード大学で流行っていたもので、MBA取得後に起業を考えていた学生達が、教授から「それなら会社を買って、そのまま起業したら?」と言われたところが発端となっています。

当然、学生達は自己資金だけでは企業を買収するが出来ないので、投資家に「この会社を自分が経営したら数年後には数倍の企業価値になります、だから資金援助を受けて買収するのを手伝ってください」というプレゼンをして出資をしてもらう。そして、投資家と一緒にサーチファンドと呼ばれるSPC(特別目的会社)を作るんです。

このように投資家の協力を得て第三者が会社を承継し、経営していくモデルのことをサーチファンド型のM&Aと呼びます。

3〜5年くらいで会社をバリューアップさせて、イグジット(売却)すれば投資家もキャピタルゲインを得ることができ、ストックオプションを発行しておけば、経営者同様に持ち分比率に応じてキャピタルゲインを得ることができるということですね。

日本は「事業承継難」と言われていますが、2025年にはなんと127万社が後継者不在で黒字倒産するというデータが出ています。対して、M&A は1年間に日本では3,000件しかディールが組まれていないんです。

M&Aの中には、事業承継以外のものもあるので、事業承継目的のM&Aは実質その半分にも満たない。

そこで私達は、新しい買い手を日本に作っていかなければ、この127万社を救えないと考え、サーチファンドモデルを輸入しました。

サーチファンドという仕組みで新しい買い手をどんどん生み出し、事業承継を解決していこうということです。

この新たな買い手、新しい経営者となる人のことを我々は「ネクストプレナー」と呼んでいます。

インタビュアー:河本様はご自身がネクストプレナーとして会社を承継されたそうですね。きっかけは何だったんですか?

河本氏:実は、昨年にサーチファンド型のM&Aで成立した案件があったのですが、ネクストプレナーの方がプレッシャーに負けてリタイアしちゃったんです。

簡単にいうと、会社の経営者というプレッシャーに精神面、肉体面で体力が持たなかったということです。

私が支援させて頂いたディールだったので、売主様にも申し訳なく思いますし、一方で脱サラしてネクストプレナーとして頑張ろうとしていた方にも申し訳ないという思いから、そこは私が責任を取らせて頂かなければならないと考え、自分がネクストプレナーとなることを決めました。

インタビュアー:おお、それはまたすごい決断ですね。

河本氏:サーチファンド型のM&Aは日本でほとんど実績がなくて、当社としてはその取引が会社として初のディールだったんです。

取引成立後のフォローもしていなかったわけではないんですが、一般的なM&Aとはフォローの厚みも全然違っていて、いつもどおりのフォローでは全く足りていませんでした。ネクストプレナーがどんどん疲弊していくっていうことを、私が気付けなかった。

経営者になるための心構えや精神面を強化していくことに加えて、何か困ったことや悩んだことがあるときに助けてくれるサポート体制がないといけないなと強く実感しました。

なので、二度とこうした世界を作ってはダメだなと感じ、ネクストプレナーを育成、創出していくための団体を作る必要があると感じて、この度、ネクストプレナー協会というものを立ち上げました。

後継者を目指す人の学びの場、ネクストプレナー協会とは?

インタビュアー:ネクストプレナー協会ではどういった取り組みをしているんですか?

河本氏:背景的なところからお話すると、これまで事業承継というと、できれば親族に継ぎたい、それが叶わなければ信頼している従業員に継ぎたいと考えている経営者の方が多かったんですね

もちろん、私たちも親族内や従業員内で承継できるのであればそれは良いことだと考えています。

ただ、現実問題、社内に親族がいないとか、従業員に継ぐとしても自社株をどのように買い取ってもらうのかとか、様々な障壁があって、結果として、親族内承継や従業員承継がうまくいかない状況になってしまっている。

そこで、新しい承継のカタチとして、ネクストプレナーを後継者に据えてくださいという提唱をしているのがネクストプレナー協会です。

具体的には、大きく4つのコンテンツを用意しています。

1つ目が無料セミナー、2つ目が研修やオンラインサロンなど双方向のコミュニケーションで学べる有料コンテンツ。3つ目は、ネクストプレナー大学。経営ノウハウやスキル、心構えの部分を中小企業の経営者の方々を講師に招いて、5ヶ月間、12テーマ、全18講座受講できるスクール形式のもの。最後が実地研修、具体的に中小企業に出向き、社長の鞄持ちから始めて、最終的に会社の経営企画室を構築するという現場体験、この4つです。

無料コンテンツは2020年9月からスタート予定で、ネクストプレナー大学は2020年11月6日の開講を予定しています。

これらのコンテンツを通じて、最終的には会社を承継してもらうことを目指して頂きます

承継者になったら、ストックオプションを付与して、自分も資本参加して3〜5年くらいを目途に売却し、ある程度お金を持ったら、もう一度同じことをしてもいいですし、資本を元手に投資家サイドに回ってもらうことも構いません。

実際にアメリカでは一文無しのネクストプレナーが、今大きな投資家になっているという事例もたくさんあります

インタビュアー:ネクストプレナーになるための条件は何かありますか?

河本氏:要件的なものは特にないです。MBAの資格も必要ないですし、出資の義務とかもありません。

とにかく絶対に従業員とクライアントと会社を守るという気概を持った方であれば、どなたでも歓迎です。

ケーススタディだけでは分からないリアルな経営体験が大事

インタビュアー:実際にネクストプレナーになった方は日本でまだ少ないと思うのですが、河本様がネクストプレナーなる前後で何か変化はありましたか?

河本氏:経営に対する考え方が大きく変わりましたね。

これまでも、今までも買い手の立場になって支援してきたつもりでしたが、いざ自分がその立場になってみると従業員の方のタイプや立場、性格などをすごく気にするようになりました。

私が引き継いだのは保育園なのですが、お客様はお子様や保護者様になります。どの保護者様はどの先生と仲良くしているのか、とか、誰がキーパーソンなのかとか、決算書には出てこないような非財務情報が経営していく中では非常に重要なのだと気付きました。

他にも、ケーススタディみたいな座学では分からない気付きはたくさんありました。

例えば、私の保育園では、お昼の時間帯に保育士5人で現場を回しているんですが、一方で厚生労働省が定めてる基準値では4人で充分と定められているんです。

でも、「だからこれからは4人で回してください」ってやるのは、数字上はとても簡単なんですけど、実際にそれを現場の保育士の先生たちに安易に伝えてオペレーションを変更しようとすると現場には大きな負担となってしまい簡単に納得してもらえるような話ではありません。

単なるケーススタディでは、人の感情が度外視されているので、簡単に改善や再建ができますが、実際の現場は心情的な納得感を得ることも大切なのだと学びました

今、日本において、大小含めてM &Aの成功率は3割以下って言われているんです。

なぜ失敗するかというと、買ってから上手くオペレーション出来なかった、とか、想像してた現場と違ったというのがほとんど。

文化の統合とか、従業員の方々の性格とか、そういうところをあんまり考えずに買収して、実際にオペレーションしたら全然コントロールが効かない。で、統合に失敗してしまうみたいなことが日本では多いんです。

なので、こうしたミスマッチを起こさないようにということで、ネクストプレナー協会のコンテンツに実地研修を取り入れました。

インタビュアー:ネクストプレナーとしの経験を次に活かしているんですね。河本様が思うネクストプレナーに必要な素養って何だと思いますか?

河本氏:最初は知識やノウハウだと思っていたんですが、今はそうじゃなくて、とにかく利害関係者と誠心誠意向き合う姿勢だと思っています。

従業員やクライアントと真摯に向き合い続けること、これが最も重要だと思いますね。

「社長になったから偉い」ではありません。最終的な意思決定はトップダウンで行いますが、既に出来上がったものの中に入っていくっていう点では、まず最初に信頼関係を構築すべきです。

そうしないと情報も入ってこないし、情報がなければ良い意思決定もできませんよね。

知識がなければ周りに助けを求めれば良いだけ。もちろん、知識はあるにこしたことはありませんが、根本の部分として誠実な姿勢がないと意味がないと思います。

クリエイティブに富んだ起業アイデアがなくても経営者になれる

インタビュアー:ゼロイチからの起業に比べて、ネクストプレナーとして会社を承継することの魅力って何ですか?

河本氏:Aという事象に取り組みたいとなった時にそのためにどれだけのお金が必要か考えますよね。

お金を用意するためにはまずBをしなきゃいけない、でもBはあんまりしたくない。

どんなことを始めるにせよ、まずはキャッシュフローが先。キャッシュフローが回るようになってから、自分のやりたいことができるようになってきますよね。

0→1の起業だと、やりたいことが出来るようになるまでに時間がかかりますが、ネクストプレナーの場合は既存の従業員、クライアント、それから保有資産があります。

キャッシュフローが回ることが前提としてあるので、最初からある程度自分の好きなことに取り組みやすいというのはあるかもしれないですね。

また、起業したいけど、アイデアがない・・・。みたいな方って多いと思うんですよね。「服が好きだから、服のビジネスをやりたい。ただ、抜本的な大きなアイデアを持っているわけではない」みたいな方でも、すでに既存の服の業界で頑張っていらっしゃる中小企業を継承することで、何かを達成できる世界もあると思うんです。

そういった点がネクストプレナーの魅力だと思います。

インタビュアー:最後に独立や起業を考えてる読者に一言お願いします。

河本氏:Growthix Capital株式会社はまだ設立1年ちょっと、私自身はネクストプレナーとしてまだ2〜3ヶ月なので、大それたことは言えませんが、経営をしてみると、色々な課題や問題が想像以上に起こります。

ちょっと精神論みたいになっちゃいますが、そこに対して絶対に負けない屈強な精神がまず大事だと思います。

自分が経営者として会社を引っ張るんだ、ネクストプレナーになるんだと志を決めたのであれば、その会社を次の人にバトンタッチするまでは、必ず自分たちは生き残るんだっていう負けない心が大事だなと思っています。

とはいえ、いきなりそんな覚悟を持てる方は多くはないと思いますので、先ずは興味関心を頂ける方にはぜひネクストプレナー協会のコンテンツを覗きに来ていただけたら幸いです。

一般社団法人ネクストプレナー協会

HP:https://nextpreneur.jp/

Growthix Capital株式会社

所在地:〒103-0026 東京都中央区⽇本橋兜町22-6 東京セントラルプレイス6階

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