吉村府知事、松井大阪市長など大阪維新の会が主導となって推し進めている「大阪都構想」。
名前を耳にしたことがあるものの、そもそも都構想とは何なのか?なぜ都構想が必要なのか?を理解できていないという人もいると思います。
今回は、大阪都構想がどのような改革なのか、そして私たちの生活にどのような影響を与えるのか、分かりやすく解説していきます。
そもそも大阪都構想とは?提唱の背景は?
まず、大阪都構想を一言でいうと、「大阪市を廃止して4つの特別区を設置」し、「大阪府と特別区で業務を分担しよう」という行政制度の変更案です。
都構想という名前は、東京都と23区の「都区制度」から生まれています。
何故、今このような都構想が叫ばれているかというと、一番の目的は「二重行政の解消」です。
これまで、大阪府と大阪市が似たような行政サービスをそれぞれが行っていたため、非効率な税金の投資を行なってきました。
二重行政の問題をしっかりと理解するために必要なのが、各自治体の役割分担です。
二重行政の問題は何故生まれる?
まず自治体の役割を大きく3つ分けると以下のようになります。
- 基礎自治体(市区町村)・・・市民限定で提供されるサービス。例えば、保育や小中学校、区役所、老人ホームなど。
- 広域自治体(都道府県)・・・市民以外の利用も含めて提供されるサービス。例えば、観光、交通インフラ、大学など。
- 政令指定都市・・・日本の大都市制度。指定された都市は、基礎自治体、広域自治体の両方の役割を担う
これまでの大阪は、大阪府が広域自治体として、そして大阪市が政令指定都市として、それぞれ広域自治体の役割を持っていたため、仕事がかぶることがあったのです。
そこで、特別区をつくり、権限を明確に分けることでこうした二重行政を解消しようというのが大阪都構想の最大の目的です。
【これまで】
- 大阪市・・・住民に身近な仕事、広域的な仕事
- 大阪府・・・広域的な仕事
↓ 仕事が被っている・・・
【都構想】
- 特別区(淀川区、北区、中央区、天王寺区)・・・住民に身近な仕事
- 大阪府・・・広域的な仕事
業務分担が可能に!
大阪市を廃止して特別区を設けるのはなぜ?
また、大阪都構想では、大阪市を廃止し、4つの特別区を設けるとしています。
実は、大阪市の人口はおよそ270万人で、これは京都府全体の人口260万人よりも多い数となっています。
1人の市長が270万人の住民へサービス提供をしようとするのは非効率だ、ということから、特別区をもうけて、それぞれに特別区長を任命し、一定の権限を付与することで迅速な住民サービスを提供しようというのが目的です。
次からこれまでの二重行政が生んだの主な弊害を解説していきます。
度重なる二重行政の弊害、損失は1.6兆円以上!?
これまでの大阪府、大阪市の二重行政によって、具体的にどういった弊害があったのでしょうか。
二重行政の弊害①:不必要な事業投資
このような二重行政の最たる弊害と呼ばれているのが、大阪府がつくった「りんくうゲートタワービル」と大阪市がつくった「ワールドトレードセンタービル」です。
これらの超高層ビルは、それぞれ高さを競い合い、着工時の高さからさらに高さを増し、最終的にはわずか10センチ差で決着がつきました。
ですが、これらの超高層ビルはその後ともに破綻。私たちの税金が政治家同士の意地の張り合いに使われた最たる例といえます。
その他にも府と市の連携ができなかったことから、様々な建物やプロジェクトが破綻や閉鎖に追い込まれています。
【破綻】
- アジア太平洋トレードセンター(3,065億円)
- クリスタ長堀(907億円)
- オーク200(1,027億円)
- 湊町開発センター(1,059億円)
- 阿倍野再開発事業(4,800億円)
【閉鎖】
- なにわの海の時空間(253億円)
- オスカードリーム(225億円)
- リフレうりわり(18億円)
- ラスパOSAKA(120億円)
【譲渡・売却】
- フェスティバルゲート(340億円)
- ワールドトレードセンター(1,193億円)
- キッズパーク(256億円)
- あこがれ(59億円)
- ふれあい港館(59億円)
- ビックステップ(131億円)
【解散】
- 大阪市土地開発公社(901億円)
- 大阪市道路公社(667億円)
※()内は事業費用
これらの事業費用の損失総額はなんと1.6兆円にも登ります。
二重行政の弊害②:交通インフラの未整備
東京などに比べて、関西の交通の便が不便だと感じたことはないでしょうか。
これも二重行政の弊害の1つ。
以下は、首都圏と関西圏の道路交通網の図です。首都圏に比べて、関西圏のインフラが複雑なのがわかると思います。
これらのインフラ整備についても、府と市がお互いどちらがどれだけの費用負担をするかといった議論が平行線となり、淀川左岸線に代表されるような未整備の区域が未だ残っています。
大阪都構想のこれまでの歴史
この大阪都構想自体は1950年代から提唱されており、2008年に橋下徹氏が府知事に就任して以降、積極的に推し進められてきました。
2015年の橋下市長時代には僅差で反対多数
2015年5月には、大阪市を廃止して5つの特別区を設置するという大阪都構想の住民投票が実施され、反対70万5585票、賛成69万4844票の僅差で否決となりました。
橋下市長は、この否決をうけて政界引退を発表しました。
バーチャル都構想で都構想の効果を示す
その後、自民、公明、共産の反維新勢力が府議会、市議会の過半数を抑えていたこともあり、暗礁に乗り上げていた都構想。
しかし、2019年4月の統一地方選に合わせて知事と市長を入れ替える通称クロス選で吉村知事と松井知事が圧勝。
府議会、市議会でも維新の会が過半数を抑え、都構想実現へ大きく前進しました。
こうして出来上がった実質的な大阪府と大阪市の連携姿勢はバーチャル都構想とも呼ばれ、30年間動かなかったなにわ筋線のプロジェクトを推し進めるなど、連携体制の効果を主張しています。
大阪都構想の経済効果はどれくらい?
大阪都構想が実現した場合、まずは、行政効率化による歳出削減効果として、「1兆1,409億円」の削減効果があるとされています。
さらに、削減できた財源から5,000億円のインフラ整備などの公共投資を行い、1兆1,511億円の経済波及効果。
さらに、大阪府・大阪市の意思決定の迅速化により、計画中の鉄道・インフラ整備が前進した場合、4,867億円の経済効果が見込まれるとされています。
ただし、これらの経済効果は都構想反対派からは、根拠がない数値と指摘もされています。
未だかつてない行政改革だからこそ、正確な数値は未知数という一面もありそうです。
大阪都構想に関するQ&Aまとめ
Q.現在の吉村・松井体制がうまくいっているからわざわざ都構想しなくてもいいのでは?
現在の吉村知事と松井市長の体制がうまくいっているという声はよく上がります。
しかし、現在の体制はあくまで市長と知事が同じ政党に所属し、同じ政治理念を持っているからこそ上手くいっているといえます。
大阪府知事は大阪の人口880万人から選出され、市長は大阪市の人口270万人から選出されるため、次の選挙で必ずしも同じ政党同士が選ばれるとは限りません。
また、大阪府は府議会、市長は市議会それぞれで過半数の承認がないと政策が通らないため、仮に府長と市長が連携して一緒に政策をやろうとなっても、片一方の議会で承認が得られなければ政策は頓挫してしまうことになります。
こうしたことから、仕組みとして都構想を実現しない限り、二重行政は根本的に解消できないのです。
Q.都構想反対派はなぜ反対をするの?都構想のデメリットは?
都構想反対派の意見としては、
- 住民サービスの質の低下
- 自主財源が少なくなる
- 大阪市民の税金が市外に流出するのでは?
といったものが挙げられています。
中でも大阪市民がこれまで払っていた税金の流れを気にする声が多いようです。
これに対する回答としては、都構想では、これまで市が直接徴収していた税金の一部を大阪府が一旦徴収し、その後特別区へ再分配する仕組みを取っています。
再分配の金額は、毎年度、各特別区の仕事量に応じて算出されるようなので、大阪市の税金が全て府にとられる、といった結果にはならないようです。
Q.特別区ごとに財政格差が生まれるのでは?
特別区ごとに歳入格差が生じないように、法人市町村税や固定資産税、事業所税、都市計画税は、大阪府が一括して徴収し、あとで再分配する仕組みとなっています。
11月1日に住民投票が決定した都構想。
松井市長は、この都構想の住民投票で否決されれば政治家を引退すると公言しました。
人々の暮らしに大きな影響を与える都構想、十分吟味した上で投票を行いたいところですね
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