労災が認定される条件とは?受けられる給付や補償・申請手続きを解説

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みなさんは「労災」という単語を聞いたことはありますか?

労災というのは”労働災害”の略称で、仕事や業務が原因で怪我をしたり、病気になってしまうことを指します。

具体的には、工事現場の仕事をしているときに、建築資材の落下によって怪我をしてしまったケースや、職場の管理不行き届きで残業時間が長期化し、うつ病などの精神的に問題を抱えてしまったケースなどが該当します。

それ以外にも、職場の空気が悪くて持病が悪化したり、ドアの立て付けが悪くて指を怪我してしまったなんてことも労災の例として挙げられています。

こうしたあらゆる職務上の怪我や病気に適用される労災ですが、認定される条件やルールを知っておかなければ、万が一の時に自己負担が重くなってしまいます。

今回は、労災認定がおりるための条件やケースをご紹介するとともに、実際に受け取ることのできる給付の違いや必要な手続きを詳しくご紹介していきます。

労災認定がおりるための条件は?おりるケースとおりないケースを紹介!

では、ここからは労災認定がおりる条件や認められるケースを詳しく解説していきます。

仕事や業務中に怪我や病気になっただけでは、必ずしも労災として認められるわけではありません。

もちろん、休日にスポーツをしていて怪我をしてしまった場合や、タバコの吸いすぎで肺がんになってしまったなんてことは労災にはなりませんが、勤務時間内での出来事で健康上の問題が発生した場合でも、どこでどのように発生したかによって労災認定がおりるかどうかは異なります。

労働基準監督署に労災として認定してもらうためにはここから紹介する2つの基準を満たしていることが必要です。

労災認定に必要な2つの基準とは!?

労働基準監督署に労災として認定してもらうためには、業務遂行性業務起因性という2つの基準を満たしている必要があります。

業務遂行性とは、「怪我を負った時に、仕事をしている最中であったかどうか」ということです。

仕事をしている最中であることもそうですが、会社によって強制的に参加させられたイベント(飲み会やスポーツ大会など)で怪我を負った時も、同様に業務遂行性があると判断されます。

業務起因性とは、「その怪我や病気が仕事を主たる原因としているかどうか」ということです。

例えば、外回りの営業の仕事をしている方が、営業の訪問先に行く最中に転んで怪我をしてしまったとしましょう。

この場合には、外回りの営業の仕事が転倒の要因となりますので、業務起因性が認められます。

ただ、営業の最中に誰かと喧嘩をしてしまい、突き飛ばされて怪我をした場合には、営業の仕事そのものではなく、口論になったことが怪我の原因となりますので、労災には認定されない可能性が高くなってしまいます。

この2つの基準のうち、一般的には2つ目の業務起因性の方が重要視される傾向があります。

ブラック企業でうつ病になってしまったり、残業がかさんで精神病になってしまったなんてケースは、業務起因性の方に分類されるので押さえておきましょう。

通勤中のトラブルは認定される?労災として認定されないケースは?

原則としては、先ほどの2つを満たしているかどうかで労災の認定がおりるかどうかは判断されますが、意外に労災認定がおりないケースや注意が必要なケースも多々ありますので、紹介していきましょう。

  • その1:通勤中の事故

まず最初に紹介するケースは、通勤途中の自動車で事故に遭ってしまったケースです。

この場合には、基本的には労災認定されます

ただし、通勤途中であることに大きな意味があります。

例えば、前日に友人の家に滞在して遊んだ場合や、飲み会があってそのまま車を置いて翌日に飲み屋から運転して出社した場合には、正式な通勤ルートではありませんし、前日に遊んだことが事故の原因の一つとも考えられますよね。

通勤ルートととしては必ずしも最短距離である必要もなく、途中で買い物をしたりトイレに行くためにどこかに立ち寄っても大丈夫ですが、上記のように著しく事故に関わりそうな大幅なルートの変更があった場合には、通勤途中ではなかったと判断されてしまい、労災認定はおりないと考えましょう。

  • その2:そもそも基準を満たしていないケース

先ほども申し上げた通り、基準を満たしてない場合には労災認定はおりません。

仕事中に怪我をした場合でも、業務以外に原因がある怪我であったり、長期休暇中の事故などで仕事中でないものなどは、労災認定がおりません。

休日にスポーツをするのが好きな方などは、趣味で怪我をしても労災には該当しませんので、くれぐれも怪我には気をつけて楽しむように気をつけましょう。

  • 本人に犯罪行為や重度な落ち度があるケース

本人にスピード違反などの犯罪行為や運転しながらのスマホ操作などの重度な落ち度がある場合には、仮に基準を満たしていたとしても、給付の制限などの措置を受けることになります。

他にも、会社からあらかじめ立ち入らないように注意されていたにも関わらず、不注意で立ち入ったことによって怪我をした場合などもこのケースに該当します。

パートやアルバイトでも労災はおりる?フリーランスはどう?

労災保険の対象となる「労働者」というのは、正社員のみをさすものではありません。

正社員ももちろんですが、パートやアルバイトも含まれます

労災保険における労働者とは、業務執行権を持つ人の指揮命令を受けている人、としばしば表現されます。

その反面、基本的には会社への従属関係の存在しないフリーランスや会社役員は基本的に労災保険の対象者ではありません。

ただ、会社役員も業務執行権を持つ人から指揮命令を受けていると認められれば、労災保険の対象として認められることがあります。

詳細はそれぞれのケースで異なるので、所轄の監督署に問い合わせてみましょう。

また、決められた事業のフリーランスの方は例外的に労災保険への加入が認められますので、フリーランスの方はご自身の状況を確認しておく必要がありますね。

労災認定を受けるともらえる7つの給付とは?

では、続いて労災認定を受けるとどんな給付を受け取ることができるのかを紹介していきます。

労災認定を受けたことでもらえる給付としては大きく分けて7種類ありますので、ぜひ区別して読んでみてください。

以下、これから説明する給付を簡単にまとめた図表になります。

種類支給事由保険給付の内容
  • 療養補償給付
  • 療養給付
業務災害または通勤災害による傷病により療養するとき必要な療養の給付または必要な療養費の全額
  • 休業補償給付
  • 休業給付
業務災害または通勤災害による傷病の療養のため労働することができず、賃金を受けられないとき休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額
  • 障害補償年金
  • 障害年金  
業務災害または通勤災害による傷病が治癒(症状固定)した後に障害等級第1級から第7級までに該当する障害が残ったとき障害の程度に応じ、給付基礎日額の313日分から131日分の年金
  • 障害補償一時金
  • 障害一時金 
業務災害または通勤災害による傷病が治癒(症状固定)した後に障害等級第8級から第14級までに該当する障害が残ったとき障害の程度に応じ、給付基礎日額の503日分から56日分の一時金
  • 遺族補償年金
  • 遺族年金      
業務災害または通勤災害により死亡したとき遺族の数等に応じ、給付基礎日額の245日分から153日分の年金
  • 遺族補償一時金
  • 遺族一時金   
  1. 遺族(補償)年金を受け得る遺族がないとき
  2. 遺族(補償)年金を受けている方が失権し、かつ、他に遺族(補償)年金を受け得る者がない場合であって、すでに支給された年金の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たないとき
給付基礎日額の1000日分の一時金(ただし2の場合は、すでに支給した年金の合計を差し引いた額)
  • 葬祭料
  • 葬祭給付
業務災害または通勤災害により死亡した方の葬祭を行うとき315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額
(その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分)
  • 傷病補償年金
  • 傷病年金
業務災害または通勤災害による傷病が療養開始後1年6ヶ月を経過した日または同日後において次の各号のいずれにも該当することとなったとき

  1. 傷病が治癒(症状固定)していないこと
  2. 傷病による障害の程度が傷病等級に該当すること
障害の程度に応じ、給付基礎日額の313日分から245日分の年金
  • 介護補償給付
  • 介護給付
障害(補償)年金または傷病(補償)年金受給者のうち第1級の者または第2級の精神・神経の障害および胸腹部臓器の障害の者であって、現に介護を受けているとき
  • 常時介護の場合は、介護の費用として支出した額(105,130円を上限)
  • 親族等により介護を受けており介護費用を支出していない場合、または支出した額が57,110円を下回る場合は57,110円
  • 随時介護の場合は、介護の費用として支出した額(52,570円を上限)
  • 親族等により介護を受けており介護費用を支出していない場合または支出した額が28,560円を下回る場合は28,560円

①療養給付

労災認定がおりると、怪我の治癒までかかった治療費を全て国が負担してくれます。

この治療費の負担分を療養給付と言います。

労災認定後の療養給付の特徴は、必ずしも完治するまでではないということです。

例えば、当該傷病に関していくら治療しても完治が見込めない状態になってしまった場合には、その段階まで治癒した段階で療養給付の支給は終了します。

②休業補償給付

休業補償給付は、怪我や病気の影響でその期間に仕事をすることができず、休業せざるを得なくなった場合に休業した分の補填が受けられるというものになります。

金額としては、給与額の6割が「休業補償給付」として支給され、さらに、それにプラスして給与額の2割が「休業特別給付」として支給されます。

つまり、労災認定がおりて休業をした場合には合わせて給与額の8割が補填されるということになりますね。

この場合の給与額というのは毎月の基本給として定義されています。

③障害補償給付

業務上の病気や怪我によって後遺障害などが残った場合には、障害補償給付というものを受け取ることができます。

先ほども紹介した、これ以上治療をしても完治が見込めなくなってしまった状態というのを「症状固定」と呼びます。

症状固定が認められる場合には、実際の治療費用以外にも障害補償給付が発生します。

こうした後遺障害に関しては等級があり、重ければ重いほど障害補償給付の金額は大きくなります。

④傷病補償年金

怪我や病気の程度が特に重い場合には、傷病補償年金・傷病特別年金・傷病特別支給金などを追加で受け取ることができます。

重度なものと判定される基準というのは、怪我や病気の発生から1年半以上経っても治療が終了しない場合という決まりがあります。

⑤介護補償給付

障害補償年金と傷病補償年金を受給している人の中でも、特に障害の程度が重いような、障害等級1級もしくは2級の精神神経障害や胸腹部臓器の障害を負ってしまった人が、現時点で介護を受けている場合に支給されるものです。

介護として認められるのは、具体的には親の継続的な介護であったり、有料の介護サービスを受けている場合とされています。

⑥遺族補償給付

労災によって労働者が亡くなってしまった場合には、遺族に対して遺族補償給付が支払われます。

遺族補償給付としては、初めに一律で受け取ることのできる遺族特別支給金と、遺族が亡くなるまで継続して受け取ることのできる「遺族補償年金」の2つがあります。

⑦葬祭料

遺族年金の他にも、労災によって労働者が亡くなった場合には、葬儀を行うための費用も支給されます。

労災認定に必要な手続きとは?期限が異なるので注意しましょう!

では、ここからは労災の申請に必要な手続きを3つのステップで紹介していきます。

また、それらの手続きの期限に関しても合わせて紹介していきます!

ステップ1:それぞれの労災にあった請求書をダウンロードする

労災保険の申請には申請書が必要です。そして、申請書は労災の種類ごとに申請書が違います。

具体的には、療養補償給付の場合は「療養補償給付たる療養の給付請求書」が、休業補償給付の場合は「休業補償給付支給請求書」などです。

具体例以外にも、それぞれに請求書が存在するので、必要に応じて労働基準監督署に取りに行きましょう。

ステップ2:請求書に必要事項を記入する

次に、請求書に必要事項を記入しましょう。この際に、事業主の署名も必要となりますので、忘れないようにしましょう。

署名をしないなど、労災を隠したがる企業もあるようですが、労災隠しは違法行為ですので、その際は監督署に相談しましょう。

また、補償内容によっては医療機関に記載をしてもらう必要があるものも存在します。

ステップ3:監督署に提出して調査を受ける

請求書を監督署に提出すると、監督署が調査にやってきます。それによって、労災保険の対象となると認められると、給付が決定します。

調査の際に、労災だと自信を持って言える証拠があると、より安心ですね。

給付が決定した後、実際に給付金が支給されるまでには、それなりに時間がかかります。

それまで医療機関などで支払う費用は、一時的ではありますが、自分で建て替ええておく必要があります。

しかし、一般の病院ではなく、労災病院を利用することで、窓口での支払いが不要となります。労災病院は全国にあります。

その際は、労災保険の申請書を労災病院に提出しましょう。そうすることで、病院と監督署間で処理をしてくれます。

行くことが可能なら、労災病院での受診をお勧めしますよ。

労災病院は全国に約30か所あり、労働者健康安全機構のホームページなどで確認できます。

労災保険申請には期限がある!種類ごとに期間が違うので要注意!

労災保険の申請には期限があります。

給付金の種類手続期限
期限の起算日
傷病(補償)年金期限なし
×
療養(補償)給付2年
治療費を負担した日の翌日
休業(補償)給付仕事を休み、給料を受けられない日
葬祭給付死亡した日の翌日
介護(補償)給付対処となる月の翌月1日
二次健康診断等給付1次健康診断の結果を知りうる日の翌日
障害(補償)給付5年
ケガや病気が治った翌日
遺族(補償)給付死亡した日の翌日

申請したい給付によって期限のスタートするタイミングや期間の長さが異なりますので、注意が必要ですね。

期間も数年単位にはなっているので、どうしても申請を後回しにしてしまいがちですし、怪我や病気で手続きどころではないケースも多くあります。

カレンダーに書き込んで期限を忘れないようにしておくなどの工夫をすると良いかもしれませんね。

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