平均寿命・健康寿命が伸び、人生100年時代と呼ばれるようになりました。それに伴って、老後生活や長生きリスクの不安が叫ばれています。
そうした老後の生活を支えてくれるのが年金(国民年金・厚生年金)制度です。
しかし、近年、収入が無くなり生活出来なくなった時のセーフティネットである生活保護と年金支給額が逆転しているのではないか?不公平ではないか?といった声が各所から上がっています。
中には、「年金未納で生活保護を受け取った方がお得なのではないか」と考える人も出てきました。
そこで今回は、生活保護と年金を徹底比較してみました。生活保護と年金を両方貰うことはできる?結局、年金よりも生活保護の方が得なの?という疑問にお答えしていきます。
この記事でわかること!
- 年金と生活保護の支給額
- 年金と生活保護を併給できる人の条件
- 年金未納と生活保護はどっちが得か
生活保護・国民年金・厚生年金の平均支給額は?
年金(国民年金、厚生年金)と生活保護の支給額を表で表した後、それぞれの支給額について簡単に解説します。
生活保護の支給額と年金の支給額は逆転
項目 | 支給額 |
国民年金(基礎年金) | 満額64,941円 平均55,615円 |
厚生年金 | 平均147、051円 |
生活保護 | 133,490円 |
厚生年金を受給できる人の場合は、平均支給額が生活保護より高いです。しかし、主に自営業の方が加入する国民年金(老齢基礎年金)は、生活保護支給額の半分程度しかもらえないのが現状です。この支給額の差が「不公平」との批判を生むようです。
国民年金(老齢基礎年金)の支給額
国民年金はすべての国民に保険料負担の義務がある年金で、20歳~60歳までの40年間で全期間保険料を納めた方は、65歳から満額の国民年金(老齢基礎年金)が支給されます。
平成30年4月分からの年金額は779,300円です。月額にすると64,941円になります。ただし、6万4千円の年金をもらえるのは40年間保険料を納め続けた方だけです。
実際の老齢基礎年金の支給額の平均は、平成29年度末現在で55,615円となっています。(参考:厚生労働省『平成29年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』)
国民年金保険料は年ごとに決まり、平成30年4月からは16,340円、平成31年度については16,410円と決定しています。
厚生年金(老齢厚生年金)の支給額
厚生年金は会社勤めをする人や公務員が受け取る年金額で、所得によって将来受け取る年金額が異なります。したがって、厚生年金の支給額は平均額で考えました。
厚生年金保険受給者の平均年金月額は、平成29年度末現在で147,051円となっています。(参考:厚生労働省『平成29年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』)
生活保護の支給額
生活保護は、住んでいる地域と世帯数や年齢によって支給額が変わってきます。ここではモデルケースとして、1級地-1(東京、大阪など)に住む60代単身者の生活保護支給額を使用しました。
生活保護支給額は以下の計算式で求められます。
生活保護支給額の算出方法
- 生活扶助基準第1類(A):38,990円
- 生活扶助基準第2類(B):40,800円
- 生活扶助費(A+B)(C):79,790円
- 住宅扶助(D):53,700円
- 生活保護支給額(C+D):133,490円
このほかにも医療扶助・介護扶助・教育扶助などが支給される場合もあります。
(参考:厚生労働省【生保基準】最低生活費の算出方法(H30.10))
生活保護と年金は両方貰える?
国民年金と生活保護の支給額に差が生まれていますが、年金と生活保護は両方もらうことは出来るのでしょうか。
結論を言うと、一定の条件を満たせば年金と生活保護の併給は可能です。
この章では、生活保護の受給条件について簡単に触れた後、年金と生活保護をダブル受給できるケースと、同時にもらえないケースをご紹介します。
生活保護を貰う条件(受給要件)
生活保護を受給するためには次のような要件・制約があります。
- 預貯金や生命保険等、金融資産は生活費に充てること
- 親や子供、兄弟等の扶養してくれる親族がいない
- 病気や高齢といった理由で働くことができないこと
- 自動車は原則保有できない
- 不動産のローン返済は認められない
生活保護を受給するためには、居住地域によって定められた最低生活費よりも手持ちの現金(預金)が少ないことが必要です。
東京23区の最低生活費はおよそ13万円。障害者や母子家庭は、さらに加算されます。また、生活保護受給者は、その他に医療扶助・介護扶助・教育扶助が支給され、所得税・住民税・健康保険料・NHK受信料・水道代などの税金や公共料金の支払いが免除となります。
また生活保護は国民の税金で生活するため、家や車を所有しているか生活に余裕のある親族がいると受給が認められない場合が多いです。
年金と生活保護を両方貰えるケースとは?
老後の収入源が年金だけで、預金が底をつき、売却できる資産がなく扶養してくれる家族いない、いわゆる「老後破産」の場合、生活保護を受給できます。
年金収入に加えて持ち家がある場合は、人によって生活保護が受給できる場合と受給できない場合があるため、お住まいの自治体の福祉事務所の生活保護担当課に相談してみてください。
年金を受給している世帯で生活保護の申請が通った場合は、生活保護費が満額支給されるわけではありません。
生活保護において、年金は収入認定される
生活保護費の満額から年金支給額を差し引いた金額が支給されます。年金は、国民年金・厚生年金だけではなく、老齢年金・障害年金・遺族年金も収入としてカウントされて、生活保護費から差し引かれます。
生活保護はあくまでも「生活保護の給付と収入を足してちょうど最低限度の生活になる」ことを目的に用意されています。
式に表すと、
「生活保護支給額」=「最低生活費」-「年金収入」
となります。
例えば、毎月の収入が基礎老齢年金のみで56,000円だった場合、生活保護支給額の上限133,490円との差額である77,490円が毎月受け取れる生活保護支給額です。
上記の計算式に従い、仮に働いて給与を貰っていても、最低生活費に足りない場合は、生活保護を受け取ることができます。
年金と生活保護を同時に受給できないケース
しかし、年金以外にも他に何らかの収入があり、1か月普通に生活可能だと判断されると、生活保護を受給できません。
原則、1か月の収入が生活保護基準額を上回っている限り、生活保護の申請が通ることはないです。
また「退職金が残っている」「車を持っている」「持ち家がある」など、収入が少なくても生活に困ることがないと判断されれば、生活保護は受けられません。
「お金になる資産はすべて処分したが、それでもお金がなくて生活できない」という方が生活保護の対象になります。
年金未納で生活保護を受けたほうがお得なの?
ここまで、年金と生活保護金額の差額や年金と生活保護ををダブル受給できることをお話してきました。
これを聞くと、60歳で定年退職するまで(現役世代の間)年金保険料を納めなければいけないのが馬鹿馬鹿しい。未払いの方がお得なのではないか、と思った方も多いと思います。
ここでは、年金未払いで生活保護を受けるのと、年金受給するのどちらが良いか解説していきます。
年金未払いでも生活保護で暮らすことは可能
お伝えした通り、手元に預金も売却できる資産もなく、国民年金の支給額が最低生活費を下回る場合、「年金+生活保護費」でも「年金なし+生活保護費」でも受け取れる金額は一緒になります。
なので、年金保険料を支払わずに生活保護だけ受給しても、年金保険料を払って国民年金を受け取りながら差額分を生活保護でもらうのも、合計金額は変わりません。
生活保護は、憲法25条「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(生存権)」で国が保障する制度のため、本当に生活に困っていれば保険料を納付することなく生活保護を受けられます。
一見、年金未納のほうが得をするように見えますね。
しかし、生活保護は自由に使えるお金が少ない
しかし、生活保護を受けると自由に使えるお金が極端に少なくなります。国民の税金で生活しているため、自分自身の生活を充実させるためにお金を使えないわけです。
【生活保護の制約】
- 貯金ができない
- 借金・ローン組みができない
- 資産購入できない
- 生命保険に加入できない
- 家賃上限が決まっている
- 定期的に担当者(ケースワーカー)が自宅訪問する
生活保護受給者に認められていないお金の使い方としては「高給な宝石類の購入」「自動車の購入」「株の購入や資産運用」などが挙げられます。
現在、生活保護受給者に認められている貯金の目的は「子どもの大学や専門学校の進学費用」「仏壇を買う費用」「病院の付き添い費用」などにとどまっています。
もちろんギャンブルの使用等も認められていませんが、一時期、パチンコ通いしている生活保護受給者が問題になりましたね。
年金を納めていれば、人の目を気にすることなくお金を使うことができるため、生活保護のほうが得とは一概にはいえません。
年金未納は財産差し押さえの可能性がある
もし、年金を払う能力があるにもかかわらず年金を未納している場合は、年金を強制徴収されてしまうかもしれません。
国民年金保険料の未納率が高まっているため、2018年度から厚生労働省と日本年金機構は年間所得が300万円~350万円の層についても、財産を差し押さえる強制徴収の基準をこれまでの「13か月以上の未納」から「7か月以上の未納」に変更しました。
思わぬ形で強制徴収されてしまわないように、負担能力がある方は年金を納めるようにしてください。
現役世代から生活保護を受けると、国民年金保険料の納付が免除・返還される
現役世代の間から生活保護を受けている方は、「国民年金保険料免除事由(該当・消滅)届」を提出することで、国民年金保険料が免除されます。
免除される保険料は、生活保護を受け始めた日を含む月の前月の保険料からです。
過去にの遡って法定免除の要件に該当した場合、その期間に納めていた国民年金保険料は返還されます。
免除期間の年金支給額は満額の1/2で計算されます。また、将来的に収入が増え、免除期間の年金額を満額にしたい場合は年金を追納することも可能です。
生活保護で暮らしていくことも可能ですが、同時に色々な制約があることも覚えておきましょう。
老後にゆとりある生活を送るために計画的な貯蓄を
ここまで、年金と生活保護をダブル受給できる条件についてお話してきました。年金だけでは生活が苦しい場合、生活保護を併給することも可能です。
「年金は社会保険、生活保護の財源は税金」です。年金は、ご自身が社会保険料を納めたことで受給権がありますが、生活保護は国民の税金が財源となっています。
老後の生活を公的年金だけに頼ろうとすると、厳しい生活になることが予想できます。老後資金を貯めておくことが大切です。
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