日本が世界に誇るインフラの一つが「水」ですが、今その水が危ないかもしれません。
オウム真理教やワールドカップ、関西、四国を中心とする地域での水害など、ニュースのトピックに事欠かない最近ですが、その裏で「水道法の一部を改正する法律案」が衆議院を通過し、参議院での審議にかけられています。
現在、日本の水道運営事業はインフラ整備、運営含めほどんどを地方自治体が担ってきました。
それがこの水道法の改正では、水道の運営権を民間企業に売却することが可能になります。
その結果どのようなことが起こりうるのでしょうか?今日は水道について考えていきたいと思います。
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現在の運営は??なんで民営化する必要があるの?
これまで日本の水道運営は、企業会計原則に基づく地方公営企業法上の財務規定が適用されるため独立採算で運営されており、原則として、水道料金収入と地方自治体が発行する企業債(地方債の一種)で水道事業の運営・更新費用などが賄われてきました。
そのため、基本的には徴収した水道料金で運営や設備の補修などが賄われています。
日本の水道は、先進国の大都市における平均的な漏水率が約30%といわれる中、東京都水道局は約3%という驚異的に低い漏水率を維持しており、よく言われるように世界にもまれにみる整備された水道となっております。
そういわれると、じゃあ民営化なんてする必要ないんじゃない?今のままでいいんじゃない?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、現在の運営は様々な危機に面しています。
現在の水道事業運営の問題点としては
- 収益の低下
人口減少に伴って水道料金の収入は減少しています。しかし、水道事業の費用の大部分は固定費であり、変動費は全体のわずか5%程度でしかないことから、水需要が減少したとしても大きく運営コストが下がるわけではありません。
- 水道施設の老朽化
水道管、浄水施設を中心として各種設備の老朽化が深刻です。日本の浄水設備の多くは1960年代から70年代の高度経済成長期に建設されたものです。今後も老朽施設の更新需要は年々増加していきますが、水道施設の耐用年数は約60年なので今後更新ラッシュが来ます。しかし、それに対応するための資金も人材も不足しています。
- 人材不足
現在の公的運営では人材の自由な雇用が難しく、技術を持った方の中途採用などが困難です。また、職員の高齢化や、専門技術が引き継がれないなどの問題点もあります。基本的に、「公務員は減らすべき」と考える人が多いため、お金で解決することも難しいです。
- 災害時対応
配水管など、各種設備を地震耐性のあるものに変えていくことが進められていますが、現状の水道施設の耐震化状況は平成28年末時点において、基幹管路(水道管など)の耐震適合率が38.7%、浄水施設の耐震化率が27.9%、配水池の耐震化率が53.3%に留まっています。このままのペースでは対応が進むまでにかなりの時間がかかってしまします。
主な問題は以上のようになります。
これらの問題に対して対処していくために民営化が進められようとしています。
また、日本で進められようとしている所謂「民営化」は現在、設備や運営をすべて民間企業に任せるのではなく「コンセッション方式」をとることが言われています。
コンセッション方式って??
コンセッション方式を推進している株式会社ジャパンウォーターのホームページを確認してみると
2011年のPFI法改正で導入されたコンセッション方式(公共施設等運営権制度)です。コンセッション方式とは、料金収入がある公共施設の運営事業において、公的機関が施設の所有権を有したまま民間事業者が当該施設を利用して事業の運営にあたる制度です。民間事業者は施設を利用して事業を運営できる権利である「運営権」を購入し、事業を運営していくなかで、利用者からの料金収入等で費用をまかないます。
株式会社ジャパンウォーターより
つまり、水道管や浄水施設などインフラ部分は官営で残したまま、運営権を民間企業に売却するというわけです。
このような運営によって、以下のようなメリットが得られるとジャパンウォーターは述べています。
コンセッションを導入した場合、どのようなメリットがあるのでしょうか。
まず発注者である公的機関のメリットとしては、民間事業者に公共施設の運営事業を任せることで財政負担なく、整備・維持運営することができる点があげられます。また、既存施設にコンセッション方式を導入する場合、運営権に対する対価を受け取ることができ、当該収入を原資に、既存債務を圧縮することができます。更に、民間のノウハウ導入による経営の効率化、マーケット・リスクの移転、行政組織のスリム化なども期待できます。一方で民間事業者側からしてみれば、今まで、公共施設の運営事業は公的機関の特権であり、参画することが出来なかったわけですから、新たな市場ができることになります。利用者によっても、民間事業者が所有する技術やノウハウを最大限活用し、不必要な経費については効率化しつつ、料金収入をあげるために、顧客サービスを充実させるはずですから、利用者も恩恵をうけることになるでしょう。
株式会社ジャパンウォーターより
民営化のメリット、懸念など
- 公務員を削減、財政のスリム化が可能に
- 専門性の高い人材の確保、活用
- 規模の経済性により効率化
- 収益を追求する民間企業と「水」という公共性が高いサービスを扱うことの非親和性
- もし失敗し再公営化をするとなった際に莫大なコストがかかり、技術、人材、情報が行政の側から失われてしまっているという懸念
- 住民側に選択権がない
- 低く抑えられていた水道料金が大幅な値上げとなる危険性
懸念 デメリットこれからの動向に注目!
いかがだったでしょうか?
世界を見渡すと、水道の民営化というと、ボリビアの水戦争の事例や、パリやベルリン、アトランタなどの主要都市での再民営化のイメージが強いです。
しかし、「民営化」と一言にいっても色々な形態があり、今回の民営化も単純に民間企業にすべてを移管してしまう、というものではないのは理解していただけたと思います。
従って、海外の失敗事例を取り上げて、「だから水道の民営化は失敗する」というのは必ずしも正しくはないと思われます。
実際、現在の運営を続けて行けば、解決できない問題も山積であり、何かしらの解決策を打たねばなりません。
「日本型の官民一体となった水道運営」を進めていけば、現在の水道運営を取り巻く問題解決の切り札となるかもしれません。
しかし、水は命の源であり、国民の安全が脅かされるような失敗は許されませんし、もし民間企業や参入してくるであろう外資系水メジャーの利益が最優先されるとなると、悲劇以外の何物でもありません。
依然としてこの水道民営化の報道には注目していく必要がありそうです。
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