年功序列と終身雇用。なぜ日本企業は実力主義を導入しないのか?

ご存知の通り、多くの日本では年功序列の賃金制度や終身雇用、新卒一括採用といった世界でも珍しい独自の雇用制度が存在しています。

そしてこれらの制度はしばしば海外と比較した際の日本企業の遅れ、弱みといった文脈で使われます。

欧米企業は能力主義を採用していて成功している。日本企業もそれに見習うべきだなどの意見です。

こうした声は20年以上に渡って叫ばれ続けてきました。

しかし、大部分の日本企業はいまだに年功序列や終身雇用制度を取り続けています。

日本独自の雇用制度が定着している背景にはそれなりの理由があるはずです。

この記事ではアメリカと対比させた日本の雇用制度の仕組みとその強み・弱みそして変革についてまとめました。

日本型雇用システムの特徴

日本の企業に共通する雇用制度の特徴を見ていきましょう。

もちろんベンチャー企業などこうした枠組みで捉えられない企業も増えてますが、未だに大半の日本企業はこうした特徴を持っています。

年功序列型の賃金制度

まずは年功序列型の賃金制度です。

日本の大卒正社員の初任給はどの会社でも基本的に月20万円程です。

そして年齢が上がっていくにつれて給料も上がっていきます。

これが年功序列型の賃金制度です。

大企業の場合は入社後10年ほどは横並びに昇給していき30半ばになってからやっと役職や給料に差が付き始めていくといった感じです。

20代でどんなに仕事が出来て結果を出しても40代の社員の給料を超えるということはあり得ません。

対照的なのがアメリカです。アメリカでは名門大学を優秀な成績で卒業し、企業に実力を認められれば1年目からかなりの高給を貰うことができます。

どうしてこうした違いが生れるのでしょうか?

日本企業のような雇用形態を「メンバーシップ型雇用」といいます。

会社内に何もできないパソコン見てるだけのおじさんが高い給料を貰っている風景はどこの企業にも見られると思います。

メンバーシップ型の雇用では給料がその人がどんな仕事をしているのかではなく、その人が何年会社に在籍しているかによって決まる部分が大きいのです。

そのため若手の内は給料が仕事に対して給料が低くなります。

反対にアメリカでは「ジョブ型雇用」の制度をとっています。

ジョブ型雇用とは社員の能力や任される仕事の責任の大きさに従って給料が決まっていく仕組みです。

たとえ若手でも実力があり、責任の大きいポジションを与えられれば相応の給料を貰うことができます。

日本のようなメンバーシップ型の雇用では若手は自分の生産性や仕事の責任の大きさと比べて給料が低くなる傾向があります。

逆に40代、50代以降になると生産性以上の給料を貰うことになります。

大阪大学社会経済研究所より

上のグラフは日本企業の年功賃金と生産性の関係性の概念的に示しています。

普通に考えればアメリカの方が仕事と賃金が対応して合理的なのになぜ日本はこうした制度になったのでしょうか?

その理由は年功賃金のルーツと関係があります。

年功賃金の起源は第二次世界大戦中に政府が推進した「生活給」と呼ばれる制度です。

生活給とは「給与が労働者とその家族の最低生活費を保障するものでなければならない」という考え方です。

若い社員は独身が多く生活費もそんなにかからないので給料が少なくてもやっていけます。

年齢が高くなるにつれ結婚して子供が生まれ、マイホームの購入者や教育など出費がどんどん増えていきます。これに対応して給料も増えていくのです。

多くの企業が扶養手当、家族手当、家族手当などを実施している理由もこれです。

終身雇用制度

日本企業の取っているもう一つの制度は終身雇用です。

終身雇用とは一度入社すれば会社が生涯に渡って社員の面倒を見るという仕組みです。

新卒で入社した同期で役員や社長に上り詰めることができるのは一握りだけです。

でも出世競争に負けた社員にも会社はそれなりの処遇を用意するのです。

早い段階で出世できないとわかっても年齢とともにそれなりに給料は上がり、50歳後半になり役職定年を迎えても、その後は関連会社への出向や契約社員として雇用を維持し、65歳の年金の給付開始まで徹底的に企業の世話になることができます。

当たり前ですがアメリカではこうした状況はあり得ないです。

アメリカでは基本的に自己責任の社会なので将来のキャリア設計を自分で考える必要があります。

出世できなかったり、仕事のパフォーマンスが悪いとわかればすぐに転職活動をしなければなりません。

働き続ければ給料が上がるということは一切なくいつ首になるかという恐怖におびえることになってしまいます。

新卒一括採用

新卒一括採用とは高校、大学を卒業した学生を企業が年に一回一括して採用する制度です。

学生は仕事に関して何も知識や技能がなくても就職することができます。

そのため日本の大卒就職率は非常に高いのが特徴です。

これを「ポテンシャル採用」といい、日本では企業が学生に対する雇用訓練の責任や費用を負っている仕組みになっています。

日本の大企業では入社後10年間ほどは若手として様々な研修を受けさせたり、数年ごとに色々な部署を経験させるジョブローテーションを通じて社員を育成していきます。

アメリカではこうはいきません。

アメリカの企業は学生に対して即戦力を求めています。例えば情報系の大学を出ていないのにIT会社に就職しようとするのはアメリカでは考えられないことです。

日本では文系の学部でもIT会社に新卒就職することは比較的容易です。

このためアメリカの大卒就職率は日本と比べても非常に高いことが特徴です。

アメリカでは職業訓練のコストを求職者自身で負担しなければならないのです。

しかし、アメリカの場合実力さえあれば経歴に空白期間があるから就職できないなどということはありません。

定年制度

日本には定年制度が存在します。

当たり前でしょうと思われるかもしれませんが、アメリカには定年制度がありません

そもそも60歳(65歳)になったら強制的に一律に退職になる定年制度には合理的な理由はありません。

60歳以降も豊富な経験を利用して活躍できる社員はたくさんいます。

それなのになぜ日本企業は定年制度を取り入れているのでしょうか?

実は日本企業の経営者にとって定年制度は重要な雇用調整手段になっています。

なぜなら日本企業は終身雇用を約束しているので勝手に社員を解雇できないからです。

とすると人件費を調整する手段は入口の新卒の採用か出口の定年しかないのです。

さらに言えば年功賃金のところでも見た通り、日本の50代以降の社員はは生産性と比べて非常に高い賃金を貰っているので定年を決めて退職させないと企業は年功賃金制度を維持できないのです。

先日発表されたメガバンクの人員調整でも同じでした。

みずほ銀行は1.9万人の人員削減を行うと発表しましたが、それも新卒の採用抑制と定年出向による調整です。人員調整の期間も10年間とかなり長期になっています。

日本では企業が大赤字に陥らない限り希望退職といった手段を取ることはほとんどありません。法律的にも社会的にもそういった手段が許されないのです。

アメリカではたとえ黒字であっても構造改革や人件費削減などで簡単に指名解雇することができます。

例えば大手通信会社のAT&Tは2017年12月従業員全員に特別ボーナスを支払うと同時に効率化の名の下で1,000人以上を解雇しています。

日本型の雇用制度は様々な制度が結びついて形成されている

今まで見てきたように「年功賃金」、「終身雇用」、「新卒一括採用」、「定年制度」といった制度が相互に強力に影響しあうことで日本型の雇用システムは形作られています。

また従業員にとってもこうした制度に守られた雇用は決して都合の悪いことではないため、これまで何度も時代遅れと叫ばれてもこうした諸制度は変わることなく残ってきました。

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日本型の雇用システムの強み

日本型の雇用システムは本当に時代遅れなのでしょうか?

あまり語られることのない「年功序列」や「終身雇用」の強みについて見ていきたいと思います。

雇用に対する安心感・将来の生活設計のしやすさ

最大のメリットは雇用に対する安心感です。

10年後、20年後自分がどのあたりの地位にいて年収がどのぐらいなのかかなり予測しやすいため、結婚子育ての人生設計がかなりしやすいです。

例えば正社員なら家の35年ローンを借りることは難しくないでしょう。

日本人は安定を何よりも最優先する国民性があります。

こうした国民性に「年功序列」、「終身雇用」は合っているのでしょう。

社内の団結の強さ・平等性

社内の結びつきの強さも日本企業の特色でしょう。

日本企業は新卒は東京大学や慶応大学といった難関大学でも地方の大学を出ていても同じ給料です。

アメリカでは幹部を期待された社員は最初から出世ルートに乗り給料も地位も差がついています。

対して日本企業の場合は最初の10年間で地位や給料の面で差がつくことは少ないです。

そのため新卒の同期とは非常に深い結びつきになります。

なぜかと言えばある時点まで横並びの出世のためお互いに対して不満を感じることが少ないからです。

単純に見えるかもしれませんが、人は意外と嫉妬深い生き物です。

給料が変わらないからこそ、課題に対して積極的に協力しあうことができ、一つの目標に向かって団結して取り組むことができます。

もし同期の中で自分より2倍も3倍も給料が高い人に協力を求められても複雑な感情を抱くことになるでしょう。

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日本型雇用システムの弱みと改革

社会・制度との深い結びつき

日本の雇用システムは社会・制度とも深く結びついています。

そのなかで生じている問題もたくさんあります。

なかでも大きな問題が「非正規と正社員の断裂」です。

日本の雇用システムでは新卒での就職が前提となっているため、もし何らかの原因でそれに乗り遅れるとリカバリーが大変になってしまうのです。

特にバブル経済崩壊後に長く不景気が続いため、新卒で就職できず非正規になってしまい正社員との大きな格差が発生しています。

もう一つの問題が「長時間労働」です

企業は手厚い雇用保障の代わりに正社員の数を絞っているため一人一人の正社員の仕事量が多く重い負担がのしかかっているのです。

必要ギリギリの人員しかいないため、繁忙期などになると長時間労働が続きそれが常態化してしまうのです。

それが事件として目に見える形で表れているのが近年の過労死やブラック企業といった問題です。

同一労働同一賃金・非正規雇用の正社員化

これらの問題を解決するための一つの手段が「同一労働同一賃金」です。

今まで見てきた通り日本では「メンバーシップ型雇用」なのでどんな仕事をしているかではなく、正社員か否か、入社何年目かが重要です。

これを改めようというのが同一労働・同一賃金制度です。

同じ労働をしていたら同じ給料を貰うべきだという極めて当たり前の発想です。

ただ実態として日本では同じ仕事でも正社員と非正規では給料に差がついていました。

近年の深刻な人手不足を背景にこれらの問題の解決が進展し始めています。

特に進展しているのがこれまで非正規の割合が非常に高かったサービス業の領域です。

例えばユニクロやスターバックスなど大手企業がパートの正社員化を推進しています。

まだ改善すべき点は多いですがこれまで不安定だった非正規の雇用が安定化することは大きな前進でしょう。

今後も人手の確保のため企業が非正規労働者の待遇改善が期待されています。

ワークライフバランス・女性の働きやすい職場に

次に変わりつつあるのがワークライフバランスです。

これまで書いてきた日本の雇用制度には実はもう一つ重要な要素があります。

それは「男性中心の雇用制度」だということです。

日本の大企業の総合職は全国転勤があり、社員に拒否する権利はありません。

また、企業が社員の雇用保障をする必要があり、必要最小限の社員数しか確保しない傾向がありました。

こうした仕組みを受け入れられるのは人生を仕事にささげることができ必要に応じて各地に赴任し、繁忙期の長い残業を耐えることのできる体力のある男性だけでした。

家庭も大切にしたい女性にとってこうした雇用システムでは、たとえ能力が高く優秀でも非常に高い参入障壁となっていました。

近年は厳格な残業規制、転勤のない地域総合職の導入、育児休暇取得率の向上など女性の働きやすい環境となる働き方改革が進んでいます。

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まとめ

日本の雇用システムを形作る様々な雇用制度について解説しました。

何十年にもわたって強固に機能しているこうした制度ですが、近年は様々な面で変化も起きています。

ただアメリカのような実力社会になるかといったら疑問かもしれません。

時代の変化に対応し日本の実態に合った雇用システムを今後も考えていく必要があるでしょう。

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