コロナ禍になって2年以上経った今でも、日々医療従事者の不足が叫ばれています。
そんな医療従事者の中でも、「臨床工学技士」という職業を耳にしたことはあるでしょうか?
初めて聞いた方、聞いたことはあるけれどどのような職業なのかイマイチわからない…という方も多いのではないでしょうか?
そこでこの記事では、臨床工学技士の仕事内容や気になる年収事情、そして臨床工学技士になるための方法まで、隅から隅までご紹介しています。
また、年収については、医者や看護師といった様々な医療従事者との年収比較もしています。
ぜひ最後まで見ていってくださいね。
臨床工学技士は「医療機器の操作・点検」の専門家!
臨床工学技士とは、医師のもと「治療のサポート」を行う職業です。具体的には様々な医療機器の操作や点検などを行います。
ここからは、以下にあげる臨床工学技士の業務内容をご紹介します。
- 呼吸治療業務
- 人工心肺業務
- 血液浄化業務
- 手術室業務
- 医療機器管理業務
業務①:呼吸治療業務
呼吸治療業務とは、「人工呼吸器」という装置の管理をする業務です。
人工呼吸器とは呼吸が十分にできない患者さんのために取り付けられる装置で、臨床工学技士は、人工呼吸器が安全に使用され、問題なく機能しているかを確認します。
必要に応じて装置のメンテナンスも行います。
業務②:人工心肺業務
人工心肺業務とは、心臓や肺の働きをする「体外循環装置」という装置の管理をする業務です。
体外循環装置が必要になるのは、主に心臓手術を行うときです。
心臓の手術を行っているとき、患者さんは体内で心臓や肺を機能させることができなくなります。そのため、体外循環装置を使うことで、体の外で人工的に心臓や肺に変わる働きをさせることができるのです。
業務③:血液浄化業務
血液浄化業務とは、患者さんの血液を通して体内を綺麗にするための治療です。
血液浄化業務には、血液透析療法、血漿交換療法、血液吸着法など様々な種類がありますが、臨床工学技士が行うのは穿刺や腎臓の働きをする人工透析装置の操作です。
穿刺とは、患者さんの血液や体液をとるために、体外から体内の血管・臓器に向けて針を差し込むことです。
一方人工透析装置とは、腎臓が上手く機能しなくなった患者さんに取り付けることで、代わりに腎臓の働きをする装置です。
臨床工学技士はこういった装置の管理も行うのです。
業務④:手術室業務
手術室業務とは、医師が手術で扱う様々な医療機器を管理をする業務です。
臨床工学技士は、医師が非常に多様な医療機器を安全かつスムーズに使えるように事前準備を行います。
業務⑤:医療機器管理業務
医療機器管理業務とは、幅広い分野で使われる医療機器の点検を行う業務です。
臨床工学技士たちは、安全に使用できるためだけでなく、機器の効果が最大限発揮されるように、細心の注意を払いながら機器の点検や管理を行っているのです。
臨床検査技師との違い
臨床工学技士と臨床検査技師では、業務内容が全く違います。
臨床工学技士は、これまでご紹介したように、「医療機器の点検・管理」を専門としています。
それに対し、臨床検査技師は「患者さんに対して行う検査」を専門としています。
臨床検査技師の詳しい仕事内容や年収事情について気になる方は下のリンクからどうぞ。
収入の違いについては次の章でご紹介しています。
臨床工学技士の年収は423万円!
厚生労働省の「令和3年賃金構造基本統計調査」によると、臨床工学技士は「その他の保険医療従事者」として載っており、臨床工学技士の平均年収は423.4万円(平均年齢37.7歳)となっています。
国税庁の「令和2年分民間給与実態統計調査」によると、日本平均年収は433万円(令和2年時点。正規非正規含む。)となっているので、臨床工学技士の年収はほとんど日本の平均水準であることが分かります。
ここで、臨床検査技師の平均年収と比べると、以下のようになります。
仕事内容 | 平均年収 | |
臨床工学技士 | 医療機器の管理・点検 | 423.4万円 |
臨床検査技師 | 患者さんに行う臨床検査 | 496.5万円 |
出典:厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」
業務内容は全く異なっているものの、収入についてはそこまで大きな差はないようです。
ここからは、臨床工学技士の平均年収を色々な項目別で見ていきましょう。
【年代別】臨床工学技士の平均年収
20~24歳 | 約310万円 |
25~29歳 | 約356万円 |
30~34歳 | 約431万円 |
35~39歳 | 約459万円 |
40~44歳 | 約455万円 |
45~49歳 | 約462万円 |
50~54歳 | 約532万円 |
55~59歳 | 約578万円 |
60~64歳 | 約439万円 |
65~69歳 | 約303万円 |
70歳~ | 約225万円 |
出典:厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」
年代間で急激に収入が上がったり、下がったりすることはなく、平均年収に比較的近い金額で緩やかにピークを迎え、60代になると下がっていく印象です。
【都道府県別】臨床工学技士の平均年収
全国 | 423.4万円 |
北海道 | 407.5万円 |
青森県 | 431.6万円 |
岩手県 | 397.5万円 |
宮城県 | 509.2万円 |
秋田県 | 359.2万円 |
山形県 | 478.8万円 |
福島県 | 334.3万円 |
茨城県 | 421.5万円 |
栃木県 | 381.4万円 |
群馬県 | 417.9万円 |
埼玉県 | 476.4万円 |
千葉県 | 393.1万円 |
東京都 | 440.1万円 |
神奈川県 | 395.4万円 |
新潟県 | 462.0万円 |
富山県 | 439.2万円 |
石川県 | 439.2万円 |
福井県 | 420.4万円 |
山梨県 | 392.6万円 |
長野県 | 361.9万円 |
岐阜県 | 510.3万円 |
静岡県 | 398.1万円 |
愛知県 | 456.9万円 |
三重県 | 367.8万円 |
滋賀県 | 489.5万円 |
京都府 | 441.2万円 |
大阪府 | 440.5万円 |
兵庫県 | 395.1万円 |
奈良県 | 468.7万円 |
和歌山県 | 460.4万円 |
鳥取県 | 404.5万円 |
島根県 | 419.9万円 |
岡山県 | 364.3万円 |
広島県 | 405.1万円 |
山口県 | 423.1万円 |
徳島県 | 456.8万円 |
香川県 | 520.6万円 |
愛媛県 | 558.1万円 |
高知県 | 414.1万円 |
福岡県 | 474.1万円 |
佐賀県 | 337.0万円 |
長崎県 | 378.0万円 |
熊本県 | 345.5万円 |
大分県 | 429.0万円 |
宮崎県 | 471.9万円 |
鹿児島県 | 423.8万円 |
沖縄県 | 417.4万円 |
出典:厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」
全体的にみても400万円台から500万円台の都道府県が多く、地域による年収の差は小さいことが分かります。
【企業規模別】臨床工学技士の平均年収
10~99人 | 100~999人 | 1000人~ |
約375万円 | 約408万円 | 約509万円 |
出典:厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」
上のデータでは、企業規模の大きい企業に勤務する臨床工学技士ほど、年収は高くなっています。
総合病院や医療機器メーカーなど、臨床工学技士の働き方は様々ですが、年収アップを目指すならば、できるだけ規模の大きい企業に就職するのが得策だと言えるでしょう。
その他の医療従事者の年収との比較
臨床工学技士の年収が何となく分かっていただけたところで、その他の医療系の職業との年収比較をしてみました。
職種名 | 月収 | 年収(賞与含む) | 賞与(ボーナス) | 平均年齢[歳] |
臨床工学技士 | 約29万円 | 約423万円 | 約63万円 | 37.7 |
臨床検査技師 | 約33万円 | 約487万円 | 約91万円 | 41.6 |
医師 | 約105万円 | 約1377万円 | 約117万円 | 45.3 |
歯科医師 | 約58万円 | 約781万円 | 約85万円 | 38.7 |
獣医師 | 約42万円 | 約586万円 | 約82万円 | 36.1 |
看護師 | 約34万円 | 約493万円 | 約85万円 | 41.2 |
准看護師 | 約28万円 | 約398万円 | 約62万円 | 50.4 |
薬剤師 | 約40万円 | 約576万円 | 約96万円 | 41.1 |
歯科衛生士 | 約27万円 | 約376万円 | 約29万円 | 34.9 |
出典:厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」
主な医療系職業との年収の差は上の表のようになっています。
臨床工学技士の収入は准看護師の収入と似ていることが分かります。
ただし、上記は企業規模、経験年数、働き方などを全て総合した数値なので、あくまで平均値として捉えていただけると良いでしょう。
例えば、医師ひとつとっても、勤務医や開業医、フリーランス医師など働き方は多岐にわたり、その収入にも大きな差があることに注意が必要です。
臨床工学技士の生涯年収は1億7424万円
上でご紹介した年代別の平均年収から、臨床工学技士の生涯年収を算出してみました。
大学卒業後23歳〜60歳まで働くと仮定すると、計算式は以下のようになります。
310万円×2年+(356万円+431万円+459万円+455万円+462万円+532万円+578万円)×5年+439万円×1年
=1億7424万円
一方、日本の平均的な生涯年収を平均収入から算出すると、
となりました。
比較してみると大差なく、やはり臨床工学技士の生涯年収は平均的であると言えます。
臨床工学技士が年収を上げる3つの方法
ここからは、臨床工学技士が収入をアップさせるための方法をご紹介します。
- 認定資格を取得する
- 規模の大きい企業で働く
- 経験年数を積み、管理職に就く
- 夜勤で働く
①:認定資格を取得する
臨床工学技士は、国家試験に合格して終わりではありません。
臨床工学技士になった後の一つの選択肢として、「臨床工学技士認定制度」というものがあります。これは、臨床工学技士の業務の中で自分の専門分野を選び、認定資格を取得できる制度のことです。
こういった制度を利用して認定資格を取得することで、スキルアップと同時に、資格手当による収入のアップがねらえます。
ここからは、実際にどのような認定制度があるのかをご紹介していきます。
日本臨床工学技士会の認定制度
日本臨床工学技士会の会員が受けられる認定制度は、「専門臨床工学技士」と「認定臨床工学技士」の2つに分かれています。
それぞれの詳細は以下のようになっています。
専門臨床工学技士
- 血液浄化関連専門臨床工学技士
- 心・血管カテーテル関連専門臨床工学技士
- 不整脈治療関連専門臨床工学技士
- 呼吸治療関連専門臨床工学技士
- 高気圧酸素治療関連専門臨床工学技士
- 手術関連専門臨床工学技士
- 内視鏡関連専門臨床工学技士
出典:日本臨床工学技士会「臨床工学技士認定制度」
認定臨床工学技士
- 認定血液浄化関連臨床工学技士
- 認定集中治療関連臨床工学技士
- 認定医療機器管理関連臨床工学技士
出典:日本臨床工学技士会「臨床工学技士認定制度」
その他の学会の認定制度
日本臨床工学技士会以外の学会にも、以下のような認定制度があります。
- 透析技術認定士
- 体外循環技術認定士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 臨床ME専門認定士
- 臨床高気圧酸素治療技師
- 日本アフェレシス学会認定技士
出典:日本臨床工学技士教育施設協議会「専門認定制度」
②:規模の大きい企業で働く
10~99人 | 100~999人 | 1000人~ |
約375万円 | 約408万円 | 約509万円 |
出典:厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」
厚生労働省のデータによると、臨床工学技士の平均年収は企業規模が大きくなるほど増加する傾向にあります。
そのため、大手医療機器メーカーなどの、規模の大きい企業に就職することも一つの手だと言えます。
規模の大きい企業を探すためには、その企業の従業員数や資本金などを参考にすると良いでしょう。
③:経験年数を積み、管理職に就く
0年 | 1~4年 | 5~9年 | 10~14年 | 15年~ |
約272万円 | 約326万円 | 約365万円 | 約414万円 | 約508万円 |
出典:厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」
厚生労働省のデータによると、臨床工学技士の平均年収は経験年数が増えるほど増加する傾向にもあります。
それに加えて、経験年数を積んだ上で管理職に就くと、役職手当によって収入アップが期待できます、
一般的には役職の階級が上がるにつれて役職手当の金額も上がっていきますが、勤務先によっては手当が支給されないところもあるため、事前に詳細を調べておくことが重要です。
④:夜勤で働く
総合病院などの入院施設のある病院では、医師や看護師と一緒に24時間患者さんに対応できるようにするため、夜勤を導入しているところもあります。
臨床工学技士が夜勤につくと、もちろん深夜手当がもらえるため収入を上げることができます。しかし、その分体力を使う仕事であるため、日々の体調管理を徹底することが重要になってきます。
臨床工学技士になるためには国家試験に合格しなければならない!
臨床工学技士として働くためには、年に一度、例年3月に実施される臨床工学技士国家試験を受験し、合格する必要があります。
臨床工学技師国家試験の受験資格
臨床工学技士国家試験の受験資格を得るためには、以下の方法があります。
- 臨床工学技士養成校で専門教育を3年間受ける
- 医療系(医師、看護師、その他の医療技術職)の学校/医用工学系の大学で必要な科目を履修したうえで1~2年の短期コースを修了する
- 大学で指定科目を修了して卒業する
出典:公共財団法人 医療機器センター「臨床工学技士国家試験」,厚生労働省 職業情報提供サイト「臨床工学技士」
臨床工学技士国家試験の受験科目
- 医学概論
- 臨床医学総論
- 医用電気電子工学
- 医用機械工学
- 生体物性材料工学
- 生体機能代行装置学
- 医用治療機器学
- 生体計測装置学
- 医用機器安全管理学
出典:公共財団法人 医療機器センター「臨床工学技士国家試験」
臨床工学技士国家試験の合格率
第29回(2016年)から第35回(2022年)までの受験者数・合格者数・合格率は以下の通りです。
実施回 | 実施年度 | 合格率 | 受験者数 | 合格者数 |
第29回 | 平成28年 | 73% | 2,739名 | 1,987名 |
第30回 | 平成29年 | 82% | 2,947名 | 2,413名 |
第31回 | 平成30年 | 74% | 2,737名 | 2,017名 |
第32回 | 平成31年 | 78% | 2,828名 | 2,193名 |
第33回 | 令和2年 | 82% | 2,642名 | 2,168名 |
第34回 | 令和3年 | 84% | 2,652名 | 2,232名 |
第35回 | 令和4年 | 81% | 2,603名 | 2,096名 |
出典:厚生労働省「国家試験合格発表」
臨床工学技士国家試験の合格率は、7割〜8割ほどとなっており、近年は80%台前半で安定しているようです。
まとめ
いかがだったでしょうか?
今回は「臨床工学技士」という職業をご紹介しました。
医療系職種の中でもメジャーとは言えない職業とはいえ、医師や看護師と同じく医療業界に不可欠な職業であることが分かっていただけたら幸いです。
お金のカタチでは、臨床工学技士の他にも、様々な職業の年収事情や仕事内容をご紹介しています。
その他の国家資格系職業の年収は下のリンクからどうぞ。
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