パートタイマーとして、短時間勤務している主婦の方の中には、社会保険料を支払い義務が発生しない年収範囲で働こうとしている人もいるのではないでしょうか。
本記事では、パート主婦が厚生年金に加入するメリットや社会保険(医療保険・年金保険・介護保険・雇用保険・労災保険)の加入条件、将来受け取れる年金受給額について、ご説明します。
2018年9月より、厚生労働省はパート労働者への厚生年金の適用範囲を拡大する方針を発表しました。具体的には、2020年の法案提出、2021年の施行で検討を進めています。
本記事では、現行の社会保険加入条件に加えて、今後実施される可能性がある加入条件の変更点についても解説します。
POINT!
- パートの厚生年金加入条件がわかる!
- パートの厚生年金加入のメリット・デメリットを紹介!
- パートが厚生年金に加入することにより、どれぐらい年金が増えるのか解説!
そもそも厚生年金って?
まずは、厚生年金(老齢構成年金)について簡単におさらいをしましょう。
厚生年金とは、主に会社員・サラリーマンが加入する社会保険の一つです。社会保険は、「年金保険」以外に医療保険、介護保険、労災保険、雇用保険の5つからなる保険制度です。
会社員・サラリーマンは、社会保険料が天引きされた上で、毎月の給料を受け取ることになります。(この受け取る金額を「手取り」と呼びます。)
厚生年金保険料は、「労使折半」といって、企業と従業員で50%ずつ負担する仕組みになっています。つまり、実質、毎月の給与から天引きされている金額の2倍の保険料を納付していることになります。
個人事業主・フリーランス等の自営業の方は、厚生年金ではなく、国民年金(老齢基礎年金)に加入する必要があります。
パート主婦が厚生年金に加入するメリット
「厚生年金保険料等の社会保険料を納付してまで、社保に加入するメリットはあるの?」というパートの方も多いと思います。
結論からお話すると、パート主婦が厚生年金に加入するメリットは以下の3点です。
- 年金支給額が増える
- 手厚い保障制度がつく
- 年金保険料の半額を企業が負担してくれる
それぞれ詳細をみていきましょう。
①年金支給額が増える
世帯主が、会社員・サラリーマン・公務員である世帯の扶養者は、「第3者被保険者」という枠に該当し、国民年金保険料が免除されています。
保険料を支払っていなくても、国民年金の受給条件を満たしている方であれば、老後に年金を受け取ることができます。
パート主婦が厚生年金に加入すると、国民年金だけのときより、老後に受け取れる年金額が大きく増えます。
厚生労働省のデータによると、国民年金の月々の支給額の平均支給額は約5,5万円ほどですが、厚生年金の月々の平均支給額は約14.8万円という結果になりました。
《平成28年度厚生年金保険・国民年金事業の概況》(厚生労働省)
- 国民年金(老齢基礎年金)の平均支給額:55,464円
- 厚生年金(老齢厚生年金)の平均支給額:147,927円
この数字は、正社員の方の厚生年金の額も含めての平均なので、パートの方が上記の厚生年金額だけの数字ではありませんが、将来貰える年金支給額はアップします。
近年では、「人生100年時代」と呼ばれるように日本国民全体の寿命が伸びており、医療の発展により、今後も寿命は伸びていくと予想されています。
同時に、「老後資金はどれ位貯めればいいんだろう」「老後の生活費はどうやって準備すればいいの」と定年後の生活に不安を感じている方も多くいます。
こうした背景もあり、パート主婦が厚生年金の被保険者となり、将来の年金受給額が増えるのはメリットといえるでしょう。
ただし、正社員・パート関わらず、厚生年金を老後に受け取るには、厚生年金保険に10年以上加入し続ける必要があるので、注意しましょう。
②手厚い保障制度がある
厚生年金には、「障害厚生年金」と「遺族厚生年金」という2つの保障制度があります。
以下に詳細な内容をご説明しますが、簡単にいうと、家族に万が一のことがあった時に、年金受給開始日以前に年金を受け取れる制度です。
- 障害厚生年金
障害厚生年金とは、一定水準の障害認定を受けた厚生年金加入者とその家族の生活を支える保障です。
具体的な条件と支給額は以下の通りです。
障害等級 | 支給額 |
1級(両目の失明、手足の喪失など) | (報酬比例の年金額) × 1.25 + 〔配偶者の加給年金額(224300円)〕 |
2級(介護が必要な精神疾患、手足の一部損失など) | (報酬比例の年金額) + 〔配偶者の加給年金額(224300円)〕 |
3級(働けないていどの精神疾患、指の喪失など) | (報酬比例の年金額) ※最低保障額は584500円 |
例えば
- 平均月収:10万円
- 障害等級:2級
- 配偶者:あり
- 勤続年数:25年
というパートのケースで計算してみます。
平均月収10万円の方の報酬比例の厚生年金額は16万円ほどですので、式に当てはめると、
(報酬比例の年金額) + 〔配偶者の加給年金額(224300円)〕
=160000+224300円
=384,300円/年
となります。ただ、ほかにも様々な要素があるので、一概にこれとは言えません。
障害等級1級と2級には、障害基礎年金というものがあり、それぞれ974125円、779300円の加算もあるので、障害厚生年金のみではありません。
- 遺族厚生年金
遺族厚生年金は、厚生年金加入者が亡くなった時、その家族の生活を保障するためのものです。
配偶者や子供、両親祖父母がその対象で、本来受け取る予定だった厚生年金の3/4が支給されます。
障害厚生年金や遺族厚生年金は、年金支給以前でも受け取ることが出来ますので、家庭に何かあった時の安心材料になるでしょう。
③会社が厚生年金保険料の半額を負担してくれる
国民年金とは違い、厚生年金は、厚生年金保険料の半分を会社が払ってくれます。
現在の厚生年金保険料の割合は給料の18.3%ですが、会社が半分を払ってくれるおかげで、実質的な厚生年金保険料の割合は、9.15%までさがります。
例えば、月収15万円のパートの方なら、約14,000円の月々の負担で、その倍の28,000円分の厚生年金保険料を納めていることになるのです。
パート主婦が厚生年金に加入するデメリット
手取り額の減少
パートの方が厚生年金に加入するデメリットは、手取りの減少という一点です。
年金受給額がアップするといっても、それは老後に受け取れるお金です。目の前の手取り金額減少を避けたいと感じる主婦の方も多いのではないでしょうか。
パートが厚生年金に加入する条件は?
パート主婦が厚生年金に加入する条件は、以下の3点です。
- 社会保険完備の会社であること
- 週の勤務時間が正社員の3/4以上または月の勤務日数が3/4以上であること
- 短時間労働者の要件を満たしていること
各項目を具体的に説明していきます。
①社会保険完備の会社であること
これは社会保険加入の上での前提条件ですね。
パートの社会保険完備をうたっている会社でも、実際には労災保険と雇用保険のみで、厚生年金は認められていないなんてこともあるので、あらかじめ就業規則等を確認しておきましょう。
そして、パートの方が厚生年金に入るためには、以下の2つの条件のうち、どちらかを満たしている必要があります。
②週の勤務時間が正社員の3/4以上または月の勤務日数が3/4以上であること
パートが厚生年金に加入するための条件の1つ目は、週の勤務時間が正社員の3/4以上である、または、月の勤務日数が3/4以上であることです。
正社員の週の勤務時間および、月の勤務日数は会社により違います。
例えば、正社員の週の所定労働時間が40時間で、月の所定労働日数が20日である場合は
正社員の週の所定労働時間が40時間で、月の所定労働日数が20日である場合
- 正社員の週の所定労働時間:40時間×3/4以上=パートが必要な週の所定労働時間:30時間以上
- 正社員の月の所定労働日数20日×3/4以上=パートが必要な月の所定労働日数:15日以上
のどちらかを満たせばよいことになります。
③短時間労働者の要件を満たしていること
厚生年金にパートが加入する条件の2つ目は、短時間労働者の要件を満たしていることです。
以前は、パートが厚生年金に加入するためには、1つ目の条件しかなかったのですが、2016年10月に条件が緩和され、この2つ目の条件が追加されました。
短期労働者の要件は以下の通りです。
- 週の所定労働時間が20時間以上あること
- 雇用期間が1年以上見込まれること
- 賃金の月額が8.8万円以上であること
- 学生でないこと
- 常時501人以上の企業(特定適用事業所)に勤めていること
補足:500人以下でも、従業員の半分以上が厚生年金加入に同意したならば、厚生年金加入ができるようになりました。
以上2つの条件のうち、どちらか1つを満たすと、パートの方でも厚生年金への加入が必要になります。
パートが気をつけるべき「106万の壁」「130万の壁」とは
社会保険への加入を考える際に「106万の壁」「130万の壁」という言葉を耳にしたことがある方も多いと思います。
「106万、130万を超えると手取り額が減るから、収入をその金額内で働こう」と考えているパートの方もいると思いますので、具体的な内容を知っておきましょう。
年収106万円の壁
106万の壁は、「従業員数501人以上の会社に勤務している」場合のみ、適用されます。
さらに、次の5つの条件全てに該当する場合のみ、健康保険・厚生年金保険の被保険者として加入義務が発生します。
- 従業員数501人以上の会社に勤務している
- 月収88,000円以上である(通勤手当や残業代は含まない)
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 雇用期間が1年以上
- 学生以外
つまり、月額88,000円(年収106万)以上の給与を受け取っていても、「500名未満の会社に所属している」、「1週間の労働時間が20時間未満」等の場合には、社会保険の加入義務は発生しません。
年収130万円の壁
106万の壁の条件に当てはまらない方でも、年収が130万を超えると社会保険への加入義務が発生します。
ちなみに、130万の壁(月収10万8,834円以上)は、106万の壁と異なり、残業代や通勤手当、賞与・ボーナスを含みます。
この130万を超えた場合に発生するのが、国民年金と国民健康保険への加入義務です。
しかし、国民年金・国民健康保険は、そもそも第3号の被保険者、かつ夫の健康保険の被扶養者という立場で、保険料支払い0で同様の保険を利用することができます。
会社の社会保険に加入していれば、障害厚生年金や傷病手当金・出産手当金を受け取ることができ、保険内容も充実しています。
パートで年収130万を超えた方は、勤め先の社会保険に加入する方がメリットが多いといえるでしょう。
厚生年金の加入条件が変更する可能性あり!
現在、厚生労働省では、厚生年金の加入条件の見直しが進んでいます。
実際の施行は2021年を目指しているということですが、パート主婦の働き方にも影響があることなので、あらかじめ変更内容を確認しておきましょう。
現在、変更が見直しされている箇所は、大きく以下の2点です。
- 月収要件が8.8万円以上から6.8万円以上に引き下げ
- 企業の従業員数要件の引き下げまたは撤廃
仮に月収要件が6.8万円に引き下げとなると、年収ベースで「81.6万円」となり、現在の「106万円の壁」から大きく引き下げられる可能性があります。
また、これまで対象外とされてきた501名未満の中小企業・ベンチャー企業も社会保険が適用される可能性があります。
今後の政府の動向には十分注意して、チェックしておく必要があるでしょう。
パートが厚生年金に加入した場合、老後に貰える年金額はいくら?
厚生年金の金額の計算式は
平均標準報酬額(平均月収)×生年月日に応じた乗率×厚生年金に加入していたの月数
という式で求められます。
例えば
- パート
- 平均月収10万円
- 勤続年数15年間
というケースで計算してみます。
生年月日に応じた乗率は、昭和21年(1946年)4月2日以降に生まれた方は0.005481になります。
では計算に参ります。
平均標準報酬額(平均月収)×生年月日に応じた乗率×厚生年金に加入していたの月数
=100000円×0.005481×180か月
=98685円/年
ということになります。
パートの厚生年金支給額は意外と少ないと思うかもしれませんが、収入源がない時の年金増額はとてもありがたいものです。
おわりに
今回は、パートの厚生年金加入についてまとめました。
正社員しか入れないと誤解されがちですが、パート主婦の方も条件を満たせば厚生年金に加入することができます。
厚生年金の加入によって将来年金額が増えるメリットがある一方で、目の前の手取りが減るというデメリットもあることがわかりました。
各世帯のご状況に合わせて、厚生年金への加入するかしないか判断してみてください。
なお、老後の生活が気になる方は以下の記事もご覧ください。
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